<第二章 翻る天幕>

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 アンブローシア本省の南隣プラーヴィ。
 傘下であるキファ家の城、キファ・アウストラシスに攻め込んだアーサー・シーベルト・ヅィバンの軍勢を攻めようとしていたとき、デミトリス・アルワイドにトラファルガ家不戦破棄の報せが入った。

「それで?」
 第一声はそれだけだった。

 デミトリスは燻らせていたパイプを置き、戦力の一部をハイランディアへ送る命を下し、同時に外交使者の手筈を指示した。
 もとより、彼はトラファルガがいつまでもハイランディアに閉じ篭っているとは考えていなかった。前当主は臆病者とみなしていたが、息子はそうでなさそうだと判断したからこそ、一時的だろうとはいえ不戦協定を結んだのだ。メンキブが当てにならないのは計算のうち。アルゲニブがそのうち降るのも、ディルガン宰相の勢力が長続きしないのもそうだ。
 ただ、計算から外れたことが少しずつ増え出した。ヅィバンの戦力は相当量削りつつあるが、自戦力の消耗が予想以上だった。王家を圧して北辺伯にカロンとの戦端を開かせたが、北辺伯は頑張り過ぎだ。自軍の統制も思ったほどまとまりがない。そして、トラファルガはもう少しの間こちらに向かわないはずだった。
 やはり、戦に関しては自らは不得手の部類に入るのだろう。彼はあっさりとそう判断する。まあいい、今までがうまく行き過ぎたのだ。それに…

 デミトリスの内より唐突に笑いが込み上げた。
 ああ、そうだ。別に自分はこの国を我が物にするつもりはなかったのだ。今の状況をもたらしたことで、ほぼ目的は果たしていた。ついさっきまで、何故何も、焦りさえも感じないのだろうか我ながら不思議に思ったが、さもありなんだ。

 ふと目線を上げると、執務室の扉の脇にいる衛兵たちが訝しげに自分を見ていた。

 デミトリスは笑いのトーンを抑え、滑らかに笑みに変えた。初めの笑い声が奇妙だったのに拘わらず、衛兵たちには、摂政殿の笑みはさも頼もしげに見える。
「いや、すまん。なに、敵がつまらない失策をしているのを見つけてね。つい笑ってしまったのだ」

 摂政は席を立ち、衛兵たちに近づいた。まだ若い兵たちは緊張の色を浮かべる。
「君たちは地元の者かね?」
 比較的年長の者が代表して応えた。
「はい。我らは南ズーベンの出身です」
「そうか。家族は息災かね?」
「はい。皆それぞれの村の期待を背負っております」
 摂政はにっこりと微笑んだ。
「そうか。頑張りなさい。だが頑張り過ぎてもいけない。家族を心配させては元も子もないからね」
「は、はい!」
「なに、逆賊はやがて滅びる。その時は我々で王家を盛り立て、国を立て直すのだ。君たちも立派になった姿で故郷に帰れれば良いな」
「ありがとうございます!」

 デミトリスは休憩を取ると告げ、執務室を出た。扉の外側の、アルワイドから連れて来た直属の衛兵たちが彼に会釈する。

 廊下を歩きながら摂政は考えた。

 さっきの奴らはそのうち最前線に送り付けてやろう。


   
王暦259年10月 ハイランディアから王都へかけての状況
259年10月ハイランディア-本省



 <王暦259年10月>
 トールは全軍をマルカブに集結させた。第一目標はビハム家領ホマン。
 そのホマンへは、アルワイド軍約1万2千が移動して来ていた。

「レオ、メンキブの退避状況は?」
「守備兵以外残ってませんよ。でも引っ掛かりますか?」
「おそらく上からの命令はホマンを固めておけ、てところだろう。だがメンキブが手薄と見て動く」
「アルワイド側の将にダンカン親子がいるからですか?」
「そう。先年の息子の失敗を取り返そうとする。メンキブが保たなかったら許せ。すぐ取り戻す」

 ホマンへ出陣したのはディートリク・アンデション率いる1010名の部隊のみ。アルワイド1万2千が動かなかったら直ちに退けと命じていた。
 だが、アンデション隊が退く必要は無かった。マルカブの対岸、メンキブから信号が届く。光の点滅はアルワイドの来襲を示していた。

 アンデション隊は、ホマン守備兵を野戦に引き出し、さらに強襲を掛け650まで数を減らした。

 キファ・アウストラシスからヅィバン勢を退かせたデミトリス・アルワイドは、ダンカンらが命令を逸脱したと知り、将たちの前で憤った。が、内心はどうでもよかった。



 <王暦259年11月>
 全軍の半数約2万でホマンへ出陣。アンデション隊を蹴散らすためアリツィア・アルディーバ隊1810が来るが、十倍以上のトラファルガ軍になすすべも無く退却。トラファルガ軍はホマン強襲を開始、北の丸の中ほどまで侵攻する。



 <王暦259年12月>
 西方教会プラエキプス3世教皇が崩御した。
 トールたちはホマン包囲の陣中でその報せを聞く。

「エイブラム・アルティム枢機卿は臨時の教皇代行となったらしいな」
「次期教皇はキャナリィの大司教を招くという話もあります」
「ふん…クリス、枢機卿ってのは次期教皇候補じゃなかったか?」
「本来最有力候補かと存じますが」
「あくまで矢面は避けようって腹だな、あいつは」
 レオフウィンが口を挟む。
「トール様は枢機卿がお嫌いなのですか?」
「大聖堂へ行き直接会えばわかるさ」

 待機部隊に兵力補充。ホマン攻めへ追加投入の準備だ。
 そして、ビハムにアルワイド勢が集結したとの報告が入る。
「では、摂政殿に目に物見せてやるとしよう」

259年12月ハイランディア

ホマン野戦
259年12月ホマン
迎撃側:トラファルガ家兵力 攻撃側:アルワイド家兵力
騎馬270  歩兵38340 鉄砲4850 騎馬2140 歩兵21880 鉄砲4560
大将 トール・G・トラファルガ (8 4 8) 大将 デミトリス・アルワイド (2 5 9)

 歩兵は倍近く差があるが、鉄砲はほぼ互角。
 兵力1000以下のアンデション、オーベルト隊を第二陣に置き、残りを先陣に集中する。
 まずは前進。続いて射撃。
 撃ち合いになる。アルワイドは陣を二つに分けているが、先陣に戦力を集めたトラファルガがそれほど際立って有利な訳ではない。押してはいるものの負傷者が続々と出る。
 先陣の一割弱が脱落したところでアルワイドの陣が崩れ、退却していった。
 アルワイド客将、メタラー家のヤツェック・クシシュトフが戦死。

 ホマンに強襲を掛け、制圧する。メンキブはどうにか本丸が残っている模様。



 <王暦260年1月>
 ホマンに守備兵を補充。各部隊へも若干の兵補充をする。ビハムのアルワイド勢の倍を維持している。

「アルワイドがいなくなっただと?」
 バハムを取ったまま、守備兵の配置がされていないことに加え、ビハムにいた軍勢を動かしたことにトールは驚いた。
「メンキブ包囲軍を除きプラーヴィへ移動したようです。ズーベン・エルゲヌビに侵攻したヅィバン軍に向かったと思われます」
「ハイランディアは棄ててもいいってか…ヅィバンと戦力を削り合ったツケが来始めてるようだな。なら、こちらはやることをやろう。バハムは頂く、アンデション隊を。ビハムはオーベルト隊を向かわせろ。残り全軍でメンキブを救援する」

 アルワイド家のメンキブ侵攻軍は三倍以上の戦力を持つトラファルガ軍と戦わずして退却。その一部がビハムへ現れたため、オーベルト隊は応戦するも退却。アンデション隊は守備兵のいないバハムを難なく制圧した

260年1月ハイランディア



 <王暦260年2月〜5月>
 枢機卿の下、西方教会はユーロパ公との関係を破棄。
 今の教会領を割譲したのは公に繋がるかつてのユーロパ王だったが、その縁も切れたようだ。ユーロパ公は南ユーロパ連合、アルクトゥルス伯、教会の三方より攻められ、風前の灯と言ってもよい。
 他地方のかつての、連合王国以前の独立王家のうち、ネクトール公はデーニッシュ侯との抗争に勝利目前となっている。
 ソーマ公はマジョラム通商会議との抗争中にカーダモン伯に背後を衝かれ苦戦。ソーマでは伯が最大勢力となっているが、戦力を比せばまだ三つ巴と言った状態のようだ。
 そしてカリスタ侯は、順調に沿岸部の連合王国以前の領地を取り返しつつある。

 アルワイドはヅィバンのエルゲヌビ侵攻を阻止したにも拘わらず、ハイランディアに戻ってこない。これ幸いとビハム家の残り2城を攻めていく。
 守備兵2000のエニフへは2800(うち鉄砲400)のエーリック隊を。
 守備兵1800のビハムへは1600(同250)のオーベルト隊を。
 それぞれ野戦へ持ち込み、エニフ守備兵を990、ビハムは1140と減らす。

260年2月ハイランディア

 3月、アルワイドの使者が来るが交渉に応じず。
 ビハム攻めはオーベルト隊で継続、エニフ攻めはアンデション隊800(鉄砲250)と入れ替える。ヅィバンとアルワイドはまだプラーヴィで戦力の潰し合いを続けている。撤退した部隊が中央に戻らなかったため、双方ジリ貧になりつつある。


 4月、再度使者が来るが応じず。
 やっとエニフ救援部隊が差し向けられてきたが、アンデション隊のみとみて一部隊だけだったため、鉄砲装備数の差でアンデション隊が競り勝つ。続いて守備兵も城外へ出てくるが、これも押し切り、次の月の強襲で制圧は決定的となった。
 ビハムの方は待機部隊を各3000まで揃え総数3万9千で強襲、制圧する。


 5月エニフも制圧、ビハム家は領地を失い将はアルワイド家臣となった。

 これでトラファルガ家はハイランディアを完全に手中に収め、国力約43万経済力約7千鉱山5千と、アルクトゥルス伯(50万)に次ぐ国内第7勢力となった。
 一時優勢だったアルワイド家(108万)は、ヅィバンとトラファルガの双方を相手にし切れず戦力の多くはアングルの本領から動けないでいた。
 続くヅィバン家(106万)もやはり、アルワイドとの抗争で中央での戦力を削られ、エラドゥーラの本領と北のセルペンティズに戦力の大半がある状況となってしまったが、中央ではアルワイドを凌駕しつつある。
 南ユーロパ連合(74万)ネクトール公(61万)キャストル家(56万)はまだ勢力圏は遠く、トラファルガ家の当面の行動は決まっていた。
 出来うる限り速やかにプラーヴィを北上する。目指すは王都トゥバン

260年5月アンブローシア



 <王暦260年6月>
 クリステンの長男、アンゼルム(4 6 4)が仕官する。そして、レオフウィン・メイベル(7 6 8)も晴れて部隊指揮を任される。

「少々厄介ですな」
 クリステンが報告の最後にそう付け加えた。
 エニフからハイランディアを抜け、最初に位置するプラーヴィの城、ズーベン・ハクラビにアルワイド勢20部隊が集結していた。戦力自体はトラファルガの三分の一強、約1万5千。全軍で当たれば恐くはない相手だが、この城は一月では落とせない。そうなると出陣費用が嵩む。といって、出陣数を相手に合わせ減らせば、鉄砲装備数で不利になり勝っても損害が大きくなるか、下手をすれば押し切られ負ける。
 現在の資金残高は25万余り。トラファルガ家の現戦力約4万3千は、定期収入ではとうに賄い切れないものだった。砲撃による損失もあるが、騎馬編成をほとんどしないでいるのはそういう理由もある。外洋交易港を持たない現状で鉄砲編成を優先してきたのだ。資金的に包囲戦を続けられるような、長期の継戦能力は無いと言っていい。

 作戦図を見ながらトールは言う。
「もっとも、それはどこもそうなんだがな。どこも開戦前はそれなりに蓄えがあったはずだが、今資金に余裕があるのは動かない海軍、教会、王家、それからアルリシャくらいだろう」
 アンブローシア東端のアルリシャ伯領は元々国内最大の交易拠点だ。伯の代替わりにはその権益を巡ってなにやらあったらしいと聞く。

「強襲を掛けて収入元であるところの領地を増やす手もあるわけだが、うちがそれをやれば一気に財政赤字となる」
「装備には大盤振る舞いですが、出陣費用はけちけちでやって来ましたからな」
「というわけで今は動かん。ヅィバンがまたどこかに攻めてくれるのを期待するか、連中の戦力を削ることを考えよう」



 <王暦260年7月>
 大雨の降る中、ユーロパ公家滅亡の報が入る。公と家臣は敵だった南ユーロパ連合に降ったらしい。

「トール様、公は敬虔な教徒らしいですが、教会には裏切られたことになるんですか?」
「知らんよレオ。そんなもん、当人にしかわからん。これも神の思し召しとか考えているなら、ある意味尊敬してもいいな。公をそう知っているわけじゃないが、伝え聞くところの性格から考えると、自分の力が足りなかったと考えていそうだ…」

 扉が大きな音を立てて開いた。
 エーリックが息を切らせそこにいた。また力任せに開けたのだろう。トールは冗談交じりに何か声を掛けようとしたが、エーリックの顔を見て止めた。
「何があった…?」
「兄貴っ、…すぐサダルバリへ、フレドリク様が倒れた…」


 一旦サダルバリに戻っていたフレドリク・シグ・トラファルガは、その日の午前に倒れた。今は居室でイェルハルド・エンドラケンに見守られ、絶えそうになる息をどうにか繋いでいた。
 先年、全快することのない病が見つかってから、当人もそしてイェルハルドも覚悟は出来ていた。だがイェルハルドは、早過ぎるではないかと何者かを呪った。至るところで多くの者が怪我を負い、命を落としているのは承知の上だ。それでもフレドリクが召されるのは早過ぎると呪った。
 彼は守り役だったのだ。
 目を閉じると、やんちゃ盛りのフレドリクと、ヒューゴたちの姿が浮かぶ。当主を継ぎ、日に日に立派な領主となっていった。それも何年も前のことになる。残るのは自分だけになってしまう…。

「…イェルフ」
 気配の無いまま呼ばれた。声がした方を見る。

「エリス殿…」
 エリス・ヴァイゲルトは後ろ手で窓を閉め、イェルハルドの横に立った。
「どうなの?」
「医師が言うには、よくこれまで保っていたと」
「…そう」
 エリスは寝台の傍らまで行く。
「いいかしら?」
 イェルハルドは黙って頷いた。

 エリスは肩に掛けていた鞄から掌に収まるほどの円筒を出し、なにかしら調整してからそれをフレドリクの首に当てた。
 荒い息が収まり、目を開け、彼女を見た。
「…やあ、…君か……変わりは無いようだね…」
「しゃべらないで。しゃべるのはあなたの息子たちが来てからにしなさい」
 エリスは彼の首筋を指先で触れた。

(ごめんなさい。わたしにもこれ以上のことは出来ない)
(いいさ…これまで充分過ぎるくらいやってくれた)
(せめてもう少し早くここに来られれば…)
(おいおい…君はこの世界にあまり干渉してはいけないんじゃないのかい?)
(あなたたちだけは少しだけ特別なのよ…)
(なら、私の分の残りがあるのなら、息子たちを頼むよ。私はあいつらとここまで来れて満足した。もうこれでいいのさ)
(そうね…やりすぎない程度に見ていてあげる)
(…ありがとう)

 雨の音だけが、この場を包む。

(…それじゃあ、名残惜しいが、君とはこれでお別れだ。縁があればまた会おう)
(ええ)
(さよなら、エリス)
(さよなら、フレディ)

 エリスはイェルハルドの側に戻ると、何も言わず彼をそっと抱擁した。
 そして、現れたときのように音もなく窓辺に行き、降る雨に溶け込むように姿を消した。


 トールたちは、フレドリクの臨終にどうにか間に合った。
 思う通りにやれ。トールは最後にそう言われた。葬儀は必要ないと遺言にあったが、いずれ落ち着いたときに行うつもりでいる。



 エニフに戻ったトールはプラーヴィの状況を知るや、レオフウィンの部隊2000を残しビハムへ一歩全軍を下げる。
 再びアルワイド勢の城に攻撃を掛けているヅィバン勢に向かうのなら、レオの部隊のみでズーベン・ハクラビを攻める。向かわないのならわざとエニフを攻めさせる…
 果たして、アルワイドはハクラビを空けた。
 レオの部隊はハクラビの守備兵を2000から1160に減らす。

260年7月プラーヴィ



 <王暦260年8月〜261年5月>
 毎月のようにアルワイドから使者が寄越されるが、丁重にお帰り願っている。
 レオフウィン隊を下げ、オーベルト隊1200でハクラビを攻める。オーベルト隊は野戦と強襲で守備兵を460まで減らす。


 9月、ハイランディア収穫は通常。税率をやや上げ50とする。民衆支持率は下がるが、農閑期の開墾でどうにかフォローできる範囲だ。
 ハクラビ強襲の用意として、ここ数ヶ月控えてきた兵補充を再開し、部隊単位を3200でまとめる。
 全軍4万5千でハクラビを強襲。デミトリス率いるアルワイドの救援軍が来るが、三倍以上の相手に何も出来ず退却。ズーベン・ハクラビを制圧する。


 10月、西方教会に新教皇プラエキプス4世が迎えられ、アルティム枢機卿は代行の座を退く。

「やはり時間が掛かったようですな」
「ユーロパ公領をかすめ取るだけで止めとけばいいものを、南ユーロパ連合と開戦しちまいやがったからな」
「新教皇も御気の毒に」

 アルワイドはヅィバンの執拗な城攻めを追い返すのに追われ、トラファルガに割く戦力が足りない。使者も途切れた。
 ズーベン南家のもう一つの拠点、ズーベン・エルハクラビをオーベルト隊1600で攻める。

 ハイランディアから本省へと流れるレダ川のプラーヴィ流域には、ズーベンの名がつく地名が多い。
 連合王国草創期に司法制度確立に尽力した家が、その功を賞して『天秤の皿を支える爪』の意のズーベンという名を賜った。隣りのキファ家もそうだ。こちらは『天秤の皿』の意である。
 だが皮肉にも、法の裁定の骨組みを作ったズーベン家は後継争いで分裂し、一時は複数の分家が嫡流を名乗るほどになった。それが地名にも反映しこの時代にまで残っている。
 ズーベン家の混乱はその後、王の裁定で南北両家に分け直されることで収拾したが、因縁は消えずアルワイド・ヅィバン両陣営に分かれ対立し、ヅィバンに付いた北家はアルワイドに三城中ニ城を奪われ、アルワイドに付いた南家はトラファルガが制圧しつつあった。


 11月、トールはある決断を下す。
「ブロッグ商会からの鉄砲購入を止める」
 自国生産量が増えつつある。教会傘下の商会を忌避してもよくなったのだ。
「うちだけがそうしたって何も変わらんがな。教会保護下の自由交易市がいつのまにか武器商人になっていたんだ。周知でも利用させていただいてたが、今後はお引取り願うとしよう」
 建前である。実のところは資金の目減りを多少和らげようということだ。とはいえ、一部隊500の配備計画がほぼ完了し、その結果トラファルガ家の鉄砲保有数は単独で海軍に次ぐ国内第二位になっている。というのも理由のひとつだ。

 エルハクラビ攻め部隊をアンデション隊870に替え、守備隊を減らす。大雪で撤退という事態さえなければ、次の全軍強襲で城は落ちるだろう。


 12月ズーベン・エルハクラビ制圧


 年が明け王暦261年1月、アルワイドの主力はヅィバン勢の城を攻めている。
 トラファルガ領と接するアルワイドの城は二つ。元ズーベン北家の城エルシュマリ(守備兵2000)とエルゲヌビ(同1440)。アルワイドは敵わずといえど落城を出来るだけ長引かせるべく部隊配置をするだろう。それを見越し、全軍が集結するエルハクラビから、アンデション隊900(鉄砲500)のみハクラビに移動させた。

 少々予想は外れた。
 アルワイドが動かしたのはイヴィカ・アンドリッチ隊1690(鉄砲210)のみ。元ズーベン南家当主だった。
「なかなか嫌らしい配置だな。だが…」
 エルシュマリへトール自身が出陣。エルゲヌビへはそのままアンデション隊を向かわせた。

 エルゲヌビに向かうディートリク・アンデションは、先行隊の報告を受け退却の用意を始めた。アルワイドの主力がヅィバンに押し返されエルゲヌビに戻ってきたのだ。敗軍だが10倍の相手に敵うわけがない。
 一方エルシュマリはアンドリッチが野戦に持ち込む。これは無謀と言えた。トール隊の砲撃に守備隊は蹴散らされ、アンドリッチは退却する。

261年1月プラーヴィ


 2月王大后フィオレンツァ・セギン=サダルバリス、40歳の若さで逝去
 フォビア・フラヴィウス王の血の繋がった身内はこれで、異母弟ギルベルト・ユーリアスと叔父のヴァイタリス・クロードのみとなった。

 エルシュマリからトールが退き、アンデション隊を向かわせる。これでアルワイドの迎撃に遭えば元も子もなくなるが…。
 アルワイドの迎撃は無く、エルシュマリ攻めは順調に進む。
 このときアルワイドは、ヅィバンがディルガン宰相の軍勢を迎撃に行ったため空いた城を攻めていたと、後でわかった。


 3月、北辺伯に押さえ込まれていたカロン南方軍が王家に降伏したという報告が入った。

「正確には、南方軍司令が北辺伯に降ったといったところではないかと思われます」
「トーレス北辺伯は対峙する相手ながらマドリッド司令とは親しかったらしいな。クリス、司令は帝国内ではどっち派だ?」
「確か非戦派、詳しくは国内振興重視派だったかと」
「司令としては収まりがついたところだろうが、帝国中央は揉めそうだな」
「でしょうな」
「時間制限が出来たか…」

 エルシュマリ攻城戦は、キファ家当主ヴラディミル・キファの部隊が現れるがトラファルガ全軍に抗せず退却、強襲で制圧となった。


 4月、オーベルト隊でザウラクを攻め始める。


 5月、オーベルト隊とアンデション隊を入れ替えようとしたところ、ヴラディミル・キファ隊4180が隣りのキファ・ボレアリスに移動している。アンデション隊に代えアクセル・パウルセン隊3900を差し向ける。戻したオーベルト隊はエルゲヌビへ。今ここにはアルワイド勢ニ部隊4400がいるが、おそらくこれはこちらのズーベン・ハクラビを攻めるものと思われる。

 ザウラクに向かうパウルセン隊と救援に来たキファ隊が接触。
 パウルセン隊が奇襲に成功。一部隊同士の直接攻撃のためパウルセン隊は700の損耗を受けるがキファ隊を2560まで減らし退却させる。キファ隊は守備兵を引き連れ再戦を仕掛けるが、パウルセン隊の砲撃により前方の守備隊は退却。だがキファ隊が残る。近距離での撃ち合いになるが砲数差で乗り切った。
 一方エルゲヌビの部隊はやはりハクラビ攻めに向かったため、オーベルト隊はエルゲヌビ守備隊の切り崩しに成功した。

261年5月プラーヴィ



 <王暦261年6月>
 アンブローシア王フォビア・フラヴィウス・アンブローシア=サダルバリス3世崩御
 何年も床に臥したまま、母を追うように19歳の若さで亡くなった。
 フォビア王の二人の兄の葬儀には多くの人々が王都に集まったが、今はそうはいかないだろう。既に王家を省みない者もいるだろうし、その場を動けない者だっているだろう。

 決して暗愚な王ではなかった。幼少のみぎりから政治への才能を顕し、フィオレンツァ后の三人の子の中で最も期待された王子だった。末の子であるがゆえに、王位は継げぬとも王の補佐を立派に務めるだろうと思われた。あるいは才覚ゆえに、王国に混乱を呼んだかもしれない。
 だが、兄たちの相次ぐ早世により王位を継ぎ、そして自らも子を残すことなく早世した。

 王家は最後に残った王子、ギルベルト・ユーリアスが継ぐことになろう。ハイランディア伯爵夫人マドレーヌ・アルワイドの息子だ。

 トールは王のために喪の宴を開いた。
 出陣中のオーベルト、パウルセンにも料理と酒を届けた。さらに包囲されているハクラビにも届けさせた。包囲軍の分もだ。
 包囲軍の将、アルディーバとイサクションは初め辞去したが、王の死を知り受け取った。

「どうだった?」
 ハクラビに使いに遣ったエーリックに聞いた。
「初めは何考えてんだって言われたよ」
「まあそうだろ。だが結局受け取ったんだろう?」
「ああ。今度は何故それを先に言わんかだと。やれやれだよ」
「御苦労」
「なあ兄貴」
「ん?」
「可哀相な王様だったな。寝たきりで19なんてよ…」
「そうだな」
「…本当に…病気だったのか?」
「さあな」
 トールは答えながら立ち上がり、両手になみなみとエールを注いだジョッキを持って帰ってきた。エーリックの前に、それを大きく音を立てて置く。
「まあ飲め」
「なんだよ、戻ったばかりなんだぜ」
「いいから飲め。飲んで騒いで肴にしてやるんだ。それが俺たちの、せめてもの手向けだ」


 ズーベン・エラクリビを落としたアルワイド勢は、トラファルガが囲む城をそれぞれ救援するよう部隊配置を変えた。確実に一度で城を落とすため、全軍をエルゲヌビに向ける。ザウラク救援軍が来た場合、パウルセンには即時退却を命じた。
 エルゲヌビへの救援はわずか2000弱、ザウラクへは250。共に敵は戦わずして退却。主力(といっても1万弱になってしまったが)は別の城の救援に回ったようだ。
 エルゲヌビは強襲にて制圧

261年6月プラーヴィ

 この月、東西で名家が滅びた。
 ネクトール公に押されていたデーニッシュ侯はついに最後の拠点を失い、当主エルマーは北辺伯の下へ逃れた。片腕だったエゼルガート・ラッセルら家臣の多くはネクトール公の配下となる。
 西では王家西分家ヴェスタラント=サダルバリス家をカリスタ侯が制圧する。侯はこれで元の根拠地だったカリスタ沿岸部を手中にした。

261年6月アンブローシア



 <王暦261年7月〜262年5月>
 ザウラクを強襲で制圧。キファ家の城キファ・アウストラシスをオーベルト隊が攻める。アルワイドの抵抗がほぼ無くなっている。どうやらヅィバンとの戦闘に負け、本省アルワイドに退却したらしい。
 プラーヴィと本省を結ぶルートのうち、アルワイド側のアディブをヅィバン主力が包囲中であるため、今プラーヴィにいるまともなアルワイドの部隊はハクラビを包囲中のものだけになっていた。これを破るのは容易い。となると…
「プラーヴィはヅィバンを注意すれば、事実上我らの草刈場となったわけですな」
「ああ。資金不足が見えてきていたからな。こちらとしては助かる」


 8月、アウストラシス攻めをアンデション隊と入れ替え、オーベルト隊をアルディーバへ向かわせる。
 またハクラビのアルワイド包囲軍を退却させる。相手は包囲するのみだったため兵糧の損耗だけで済んだ。


 9月、ハイランディア、プラーヴィの収穫は例年通り。税率は50。領民にはもうしばらく我慢してもらう。また、鉄砲備蓄量が1000を越えたため、当面自国生産と購入で月250の入手に留めることとする。
 アディブを包囲していたヅィバン勢はアルワイド勢に押し返されたため、草刈場は解消。
 カリスタ侯がケイニクラとの不戦協定を破棄。旧カリスタ王国の版図を回復しようとしているようだ。頃合を見てこちらから使者を差し向けた方が良いだろう。

 強襲でキファ・アウストラシスを制圧


 10月、アルワイド領を侵攻し続ける中、ヅィバンと当面どのような関係を採るか決めなければならない時期が近づいてきた。間もなく勢力圏が接することとなる。

 前諸侯会議議長アーサー・シーベルト・ヅィバン率いるヅィバン家勢力は、アルワイド及びディルガン宰相(すでにディルガン家のみとなり、糾合された勢力ではない)との抗争を重ねながらも、いまだ国内最大勢力だった。ただし、中央での戦力はかなり削がれ、アルワイドを中央から駆逐した後のトラファルガなら充分対峙できるはずだ。
 ただ、開戦前のアーサー・シーベルトの人物を思うと、いささか話し合いの余地はありそうだった。伝えられる情報を総合してみると、どうも前議長は摂政と宰相に罠に嵌められた節がある。
「とはいえ、この内戦の火種の一つには違いないし、本省の東側は明らかに不法占拠だな。今更何が不法とも言えなくなっちまったが」

 イェルハルドが応える。
「然様。アーサーという御方は、確かに彼を議長の座から引き摺り下ろした者どもに比ぶれば、至極真っ当な人物で御座いました。然れどトール様が申されるのもその通り。向こうから交渉の使者を寄越すなら考える。という方針でまずは宜しかろうかと存じます」
「では、当面はそうするとしよう」

 アルディーバ制圧。一方、キファ・アウストラシスにアルワイド勢が攻め込んで来た。


 11月、ヅィバン家勢力スハイル家領と接したため、ヅィバンから使者が来る。予定通り不戦同盟を結ぶ
 アルワイド家ミアプラキドゥスをアンゼルム・エンドラケン隊で、キファ家キファ・ボレアリスをオーベルト隊で攻める。残りは全軍キファ・アウストラシス救援に回る。
 アルワイド勢はヅィバン・トラファルガ双方の攻城戦で退路を絶たれズーベン・エラクリビに退却。


 12月、ミアプラキドゥスからアンゼルムを下げオーベルトを送り、キファ・ボレアリスへはアンデションを。ズーベン・エラクリビへレオフウィンを初めとする27600で包囲に向かわせる。それぞれの攻城戦は順調に進行した。が…

261年12月後半


 262年1月、年明けにアンブローシア北部から中央山脈沿いにハイランディア・プラーヴィに掛けて大雪となる。各部隊は撤退。出陣費用が掛からなくて済んだものの、各城への攻城はやり直しとなる。

「そういえば、デミトリスを完全に追い詰めたわけじゃないな、これは」
「どういうことだ、兄貴」
「俺たちの攻城軍が着く前にヅィバンに出陣されたら?」
「そうか。こりゃ逃げられるな」
「一部隊だけ送り様子を探ろう」
 エラクリビはアルベルト・スヴェンソン隊のみで様子を見る。他は先月と同じだ。

 アルワイド勢には、やはりヅィバンに出陣された。ボレアリスのアンデション隊は強襲の準備を整えてくれたが、ミアプラキドゥスは先にヅィバン傘下スハイル家が攻め込み、早くも同盟で侵攻ルートが押さえられる事態となった。

262年1月プラーヴィ

 2月キファ・ボレアリス制圧。ヅィバン勢がアディフを落としたため、当面本省へ出るルートが無くなる。


 3月アルクトゥルス伯がアルワイド家との同盟を破棄、アルワイドは本領を脅かされることとなった。


 4月、アルワイドから久々に使者が来るが応じず。
 包囲戦の末、ズーベン・エラクリビ制圧。アルワイドの将、スタニック・コーエンとスティパン・ベルクロスを捕虜とする。


 5月ハンニバル・グラフィアス将軍逝去。連合王国軍第一軍司令官、歴代王の最高の忠臣と謳われた男が、何を想いこの世を去ったのかはわからない。

262年5月プラーヴィ


 <王暦262年6月>
 ヅィバンを包囲していたアルワイド勢が敗戦し逃走したらしい。
「もう一度言ってくれ。それで、デミトリスは何処に行ったって?」

 クリステンの報告は、にわかに信じ難いものだった。
「シルマです。敵勢力圏とはいえそれを抜ければアルワイドが近いにも拘わらず、散り散りになって敗走し、おそらく影響力のある王都を抜け、アルラキスからタンタルス海を渡り北方フリア・ロハのシルマ家に現れたとのこと。アルワイドに向かうだろうと待ち構えていたヅィバンの裏を掻いたといえばそうですが、兵の損失など色々割に合いませんね」
「それで中央にはもうほとんど将兵はいないってか? アルワイドは元々やつの領地ではないが、長年の居館があった場所だぞ。まさか、いらないとでも言うのか?」

 そのとき、比較的年少組で何かしら話していたレオフウィンが口を開いた。
「ちょっと、いいでしょうか?」
「なんだレオ?」
「なんというか、例えとして適切かどうかはわかりませんが。小さい頃のアンゼルムが癇癪持ちだったのは覚えておいでですよね」
「それで?」
「みんなでゲームをやってまして、つい僕がアンゼルムをカモにして負かしてばかりになると、腹を立てて盤をひっくり返すことが何度もありまして…」
「いや我ながらお恥ずかしい」アンゼルム・エンドラケンが頭を掻く。父親のクリスは苦笑いを浮かべた。

 トールは目を閉じ、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
「…少し前から引っ掛かってたんですが、つまり…デミトリス・アルワイドという人は実は意外と執着心の類は薄く…」
「国を我が物にとか、権力を恣に、とかではなく、ゲーム盤を引っ繰り返すかのように国を引っ掻き回したかった。と、いうことか?」
「あくまで僕がそんな感じを覚えたということですが…」
「そんなことがあってたまるかっ」
「…そうですよね…」
「状況証拠らしきものしか無いが、今の国の状況を引き起こした、その首謀者の一人と思しき人物の動機がそんなことであってたまるか。…く」

 トールは続く言葉を飲み込んだ。そのままではいささか士気に影響する。しばらく黙り込んだ後、落ち着いて口を開いた。
「…どうあれ、戦の勝ち負けでどうこうという、単純な相手ではないか…。厄介だな」

 ズーベン・エラクリビで勢力圏が接したアル・ナスル伯と不戦同盟を結ぶ。今や3倍の国力を持つトラファルガに、向こうから使者が来るものと考えていたが、どうやら南のナスライン家との抗争で余裕が無いようだ。
 各地方の伯は連合王国成立時の有力家臣が配されたものだ。アル・ナスル伯はトライオン北部を治める。本来王国の国政に力を発揮するべきだったが、南の領主ナスライン家との険悪な関係を長年続けていた。プラーヴィの分裂したズーベン家と似ているが、こちらはより古くからのものであり、何が原因でここまで拗れたのか、もはや当事者同士さえわからないのではないかとまで言われたものだ。
 双方の領地を削り、緩衝としてアルシャイン家が置かれることにより一応の収拾を見たはずなのだが、今はまるで他地方がどうなっているのか関心も無いが如く、再び抗争を始めていた。アルシャイン家の防波堤はとうに崩れている。



 <王暦262年7月〜12月>
 トラファルガが勢力を広げるためには、ヅィバンとの不戦同盟がネックになりつつあった。
 だが、ヅィバン勢が再び自領を侵したディルガン軍を追い落としに、本省の東マンスシャフトに向かった隙に、ろくに守備兵が配備されていなかったアディフをアルワイド勢で唯一まともに残ったヴラディミル・キファ隊が制する。ヴラディミルには悪いが、これでトラファルガが本省へ進むルートが出来た。
 アルワイドは今回ヅィバンと違い守備兵の配置をしていたが、アンデション隊の攻撃で半数に減らされることとなる。ヴラディミル隊はヅィバン勢スハイル軍に押されプラーヴィの外れメタラー家領に押しやられる。本省侵攻時でのアルワイドの抵抗はほとんど無いと見てよくなった。


 8月アディフ制圧。トラファルガ家はアンブローシア本省に一歩を記した。


 9月、アディフのある本省のみ豊作。税率は50。
 アルワイド攻城を開始する。


 10月、トライオンの南方アルビセレステのアルワイド勢、アルゲテナル家がヅィバンに鞍替え。傘下が攻め滅ぼされる以外の形で、アルワイド勢瓦解が始まったようだ。


 11月アルワイド制圧。王都トゥバンは目の前となったが、王家は王都近辺にいまだトラファルガ家を上回る兵力を残していた。


 12月サダルバリス王家より使者が来る。
「とりあえず結んでおけ」
王家と不戦同盟を結ぶ。今はアルワイド領を制するのが先だ。
(もっとも、それは元々王家の領地なのだが)
 トラファルガからはシラー伯と、アルワイド勢から離脱したカノプス家との不戦同盟を結ぶため使者を送る。交渉は成功

 先のレオフウィンの予想はいくらかは当たっているのかもしれない。本省の残るアルワイド領、ラスタバンエルタニンがほぼ防備が為されていないのを知り、トラファルガ家の将たちはそう考えた。
 共に強襲にて制圧。トラファルガ家はやっと外洋港を手に入れることが出来た。
 また、兵も持たされずラスタバンにいて、投降してきたアルセン・フラー(3 4 4)を登用。エリーコ・クレメンツ(2 3 4)は捕虜となる。

262年12月本省



 <王暦263年>

263年1月アンブローシア
263年1月大雪

 1月、この年明け、アンブローシア全域を大雪が覆った。
 ビハムでウールリカ・リンデロート(8 3 7)が仕官し登用。元はビハム家の家臣筋の者だ。父と兄はまだアルワイドの将として北にいる。

 シラー伯アル・ナスル伯カノプス家従属させる。
 トールは従属したばかりのシラー伯領に出向いた。シラー伯マティアス・グラントに会うためだ。

 丁重な出迎えを受け促された先は、執務室ではなく居室だった。
 マティアス・グラントは寝台の上にあった。
「久しいな、トール」
「そうですね」

 主に海洋交易国であるアンブローシア連合王国に常設海軍はあるが陸軍は無く、事あらば各地方領主が軍役を課され、連合軍が編成される。
 各軍司令にあたる領主は、平時は若年領主や領主の子弟への軍学教授を統括する役目を担うため、それによる師弟筋がいくつか存在する。
 軍学の師として特に名高い者が、この時期二人いた。
 去年亡くなったハンニバル・グラフィアス将軍と、その一世代後となる王国近衛シラー伯マティアス・グラントである。
 つまり、マティアスはトールの師にあたる。

「座学では優秀なのか馬鹿なのかわからないと言う教授連中もいたが、お前はやはり、一番面白い教え子だったな」
「そんなこともありましたかね」
「ヒューゴ殿やフレドリク殿が側にいたんだ。推して知るべしだったんだな……御二人は亡くなられたそうだな?」
「はい」
「…そうか。…まあなんだ、俺も遠からず御二人に御会い出来そうだ」
 問い掛け辛そうなトールの顔を窺い、マティアスは自分から言った。
「なに、うちの息子は政務などは俺より上手くやりやがるし、ややこしいことに長けた甥もいる。グラント家はまあどうにかなるだろうて」
「…何言ってんだよ先生」
「…前から少々調子が悪かったが、つい先日足萎えが来やがった。医者は一時的とは言うが、正直言って相当気も萎えた。この無様な姿はそういうことだ。本当は俺の方が出向かねばならなかった。済まん」
「弟子が出向くのは当然でしょう? 気になさらないでください」
「…」
「なんですか?」
「お前もちゃんとそういう口が利けるようになったんだと感心した」


 しばらく昔話に花を咲かせた。馬鹿笑いも交えながらしかし、時々二人して同時に黙ることもあった。
 話の中の連中の何人もが、既にこの世にいないのに思い当たったのだ。

「それで、どうするつもりだ?」
「国ですか?…どうしたものでしょうね」
「では…」  マティアスは一呼吸置いた。 「王家に成り代られよ。なに、やることは現王家初代と変わらん。貴公の場合、なんと血筋にも問題は無いではないか」
「柄じゃないんですよねえ…」
「南の連邦のような枠組みだけ作って新政権に委譲という手もある。いずれにせよ、苦労して平定したところで今の王家に献上してはまたすぐに乱れるぞ、この国は」
「近衛がそんなこと言っていいんですか?」
「実のところ、このごたごたに倦んでいるのは貴公だけじゃないのでね。貴公が充分な力を見せ付ければ、下に集う者も増えよう」
「早道ってことか…」
「左様。俺の我侭でもある。我侭だが、行く末は見届けたい。それに、…俺の王は二年前に死んでしまったからな」


 2月カノプス家(5万5千)アル・ナスル伯(27万)シラー伯(20万6千)の順に臣従勧告し、三家は臣従する。
 これで勢力全体の国力がヅィバンを上回り、国内最大となる
 また、ナスライン家と不戦同盟を結ぶ。

※三家のうち伯のニ家は、割合大きな領地を残していたため臣従条件ぎりぎりの線にあったらしい。上の順番を変えるとカノプス家以外臣従しない。またセーブデータを開きやり直すと、どちらかといえば臣従拒否の方が多い。


 レ・ブルゥのメンカル、ブローギューラのクヤムを攻める。
 メンカルは兵糧の備えが足りず落城。メンカル家当主アビゲイルは逃亡、家臣オギュスタン・アルヴァ(4 5 6)ロベール・ジョフロワ(4 3 2)が投降した。

263年2月レ・ブルゥ


 3月初め、イェルハルド・エンドラケンが亡くなった
 制圧したメンカルの巡検に行くクリステンに珍しく同行を望み、その帰りに倒れたのだそうだ。

「…なに、76歳なら…大往生と言っても、よいでしょう。眠るようでしたよ、トール様…」
 そう、クリステンは言った。
 遺骸はハイランディアの墓所へ向かった。フレドリクやヒューゴたちと共に眠るのだ。


 臣従三家からチェスワフ・カノプス(5 4 3)ユミト・アスヴァール(4 5 7)テオフィール・グラント(5 4 6)客将とする
 捕虜であったエリーコ・クレメンツ(2 3 4)を登用。
 プラーヴィのアルワイド勢メタラー家のカプト・トリアングリ攻めを開始。


 4月ナスライン家を従属させる。クヤムは強襲で制圧


 5月、アルクトゥルス伯の攻撃を受けているアルワイド従属サーリン家を、後背から突く。手が回らないらしく空き城同然だったマルファクをシラー伯マティアスが落とす


 6月ナスライン家(17万6千)を臣従させる。アルキバ家がアルワイドからの鞍替えを申し出てきたので受ける。
 カプト・トリアングリを落としヴラディミル・キファ(4 3 3)を捕縛する。一人中央に残され、この男はよくやったとトールは評するが、登用できるかどうかは別の話だ。
 サーリン家の方は従属したアルキバ家が先にコルネファロスに攻め入ったため保留。

263年6月ブローギューラ


 7月アルキバ家(12万7千)を臣従させる。
 先月アルワイド勢から離脱したサーリン家が従属志願。これは受ける。
 残る城をスハイル家に攻められ滅ぶ寸前だったメタラー家が鞍替え要請。これも受ける。
 ただその前に、アルワイドから従属志願があった。当然受け入れず、使者は返したのだが。

※メタラー家がまだアルワイド傘下だったためトラファルガと接しており、従属志願してきたのだが、ゲームシステム的にはおかしくないが、『トール』としては今までのいきさつからしてもわけがわからない話となろう。


 執務室でクリステンと二人、しばし考え込んだ。
「…」
「…」
「…あー、なんだ。クリス、これは何かの冗談か?」
「あちらの状況からすると、そういう手段もあるでしょうが、我々に使者を寄越すとは。冗談としても笑えませんな」
「焦った誰かがデミトリスの承諾を得ずってこともあるか…。やつの本領のあるアングルでは、かなり前にアルクトゥルス伯との同盟が破棄されていたよな?」
「アルワイドとの同盟破棄前、アルクトゥルス伯主力はユーロパ公領を抜けてリゲル自治市、アルテルフ領と制圧していますが、ガーラでのユーロパ公、南ユーロパ連合、西方教会が絡んだ混戦の後、ガーラに足留めを食らったようなのです。アンブレオンの伯の残存戦力では温存されていたアルワイド軍と構えるには足らず、もっぱら伯に鞍替えしたカロン辺境伯デネヴィエロ家が事に当たっているとか」
「付け入るか? これは」
「我が方の勢力はまだ国に号令するには足りませんし、それも有りでしょう。ところで」
「なんだ?」
「いつから国に号令するとお気持ちを固められたので?」
「シラー伯に会ってからだが。…仕方なかろう、成り行きに任せては碌なことにならん。きっかけがどうあれ目的は決めておかないとな」
 クリステンはつい笑い声を漏らした。
「なんだよ?」
「まったくあなたは、傍目には適当に見えても実に合理的というか…」
「というか、なんだよ」
「いや、昔から変わらんなあと」
「そうか? ……おい、適当は余計だろ」
「ははは」

 そこにエーリックが神妙な顔をして入ってきた。
「どうした?」
「アルキバの守備隊から報告があった。先のアルワイドの使者がアルキバ領を出たところで殺されていたそうだ」
 トールはクリステンと顔を見合わせた。
「誰かが勝手にというのが当たっていたようですね」
「やったのはデミトリスの手の者か、デミトリスに知られたくないやつの手の者かってか」
「殺せばいいってものでもないよな、兄貴」
「真面目そうなやつだったのにな、返さずに匿ってやればよかったか」
「後の祭りですけどね」


 8月、アルワイドの捕虜(元はキファ家家臣)スティパン・ベルクロス(2 3 5)が仕官を申し出たため登用する。
 アルキバ家のエステバン・オクォーア(4 3 6)、ナスライン家のディナク・ヴィダルナ(8 5 2)客将とする。
 メタラー家サーリン家を臣従させ、アルクトゥルス伯領マシムを攻めていたサーリン軍を退きノーマン・オーベルト隊を向かわせる。
 マシムは少し前まで王家北分家ノルティエラが押さえていた、アンブローシア本国とユーロパを結ぶ北部回廊の重要拠点だ。中央山脈を抉るナバイア湖の畔にある。

※ナバイア湖からヴァレトニ、レ・ブルゥを抜けタンタルス海に注ぐ川はアルセイス川。


 9月、トラファルガ領の収穫は、ハイランディア以外が豊作となったため税率を40とする。
 メタラー家のイェージィ・ボリス(7 3 3)とサーリン家のジャンピエロ・ヴォルニー(7 3 3)客将とする。
 兵補充は、客将を含む歩兵数4500〜5000の主力と、オーベルト、フラーが専任してきた対守備兵部隊の二系統に分けて行うこととする。対守備兵部隊には捕虜から登用したジョフロワ、クレメンツ、ベルクロスを増員する。まだ資金が潤沢とは言い難い状況で、城攻略速度を上げるためだ。


 10月、カリスタ侯、キャストル家双方に挟撃されているケイニクラ勢に従属要求するが拒否される。

「もう助け舟にもならないようですね」
「仕方が無い、侯とキャストル双方と不戦同盟だ」
 この同盟は成功。南は当面は安心と言ったところだが…
「ケイニクラがキャストル家に従属志願し受け入れられたようです」
「…おいおい」

 マシム制圧、ユーロパへの道が開かれた。


 11月、次の攻略目標のエルナトの隣りに、アルクトゥルス伯傘下アマデュー・アルマーズ(6 2 3)隊2920がいるため、念のためオーベルト、フラー二部隊で攻め込む。
 アルマーズ隊はエルナト救援に駆け付け、野戦となる。こちらが二部隊だったのが辛うじて功を奏した。前陣のオーベルト隊は崩されるがフラー隊がどうにかアルマーズ隊を退却に持ち込む。
 が、守備隊を加え再度の野戦となる。守備隊は蹴散らすも先の野戦と同様の流れとなり、結果アルマーズ隊は退いたがこちらも三分の一強の損害を与えられた。

※5000の部隊で攻め込めば勝つのは楽になるだろうが、アルマーズ隊にも篭城され城攻略に手間取る可能性もあるので痛し痒しの結果である

263年11月アンブレオン


 12月ベルクマン・キファ(6 6 4)が仕官し登用。またケイニクラ家は結局カリスタ侯に攻め滅ぼされ、グスターヴ・アデナウア(6 2 4)スヴェン・ルースベルク(4 2 4)がトラファルガ家を頼ってきたので登用する。
 また、捕虜のスタニック・コーエン(2 4 6)を登用する。この男は中央でデミトリスの配下にいた者だ。
「摂政の人物を知りたいと? 申し訳ない。私は若様方の補佐役だったため、皆様が既にお知りになられている以上のことは話せないと思う…」

 エルナトを制圧した。北部回廊のユーロパ側出口を得る。
 アルワイドの本領があるアングル、アルクトゥルス伯の治めるアンブレオン、ユーロパ公領だったガーラ、中小諸侯が分立するガルバルディアと連なる、アンブローシア最大の穀倉地帯が、カイベルとヴェルソー、二つの河川流域に広がる。
 この全域を制すれば、おそらく穀物収穫に不安は無くなることだろう。だが、急いては事を仕損じる。目的はアルワイドを追い詰めることだ。

263年トラファルガ勢力推移



 <王暦264年>

264年1月アンブローシア

 1月バスティヤン・キファ(5 5 3)が仕官し登用。
 アルクトゥルス伯領ムフリッドの攻略開始。


 3月サーマン・ミャルビィ(5 7 3)がバハムにて仕官、登用する。
 ムフリッドを制圧


 4月アルクトゥルスを制圧


 5月、クリステンの娘フレドリカ・エンドラケン(3 7 6)がシェアトに登場、登用する。
 ネッカルを制圧


 6月アルゲディ家が従属を申し出、これを承諾しさらに臣従させる。
 シュケディを制圧


 7月アルトゥル・スヴェンソン(6 2 3)がマルカブに登場、登用する。
 アルゲディ家のマクシム・オルタンス(5 3 9)を客将とする。
 カロン辺境伯デネヴィエロ家からアルクトゥルス伯からの鞍替えの申し出、承諾し、アルゲディ家と同じく臣従させる。これを受け、アルマーズ家も鞍替えを申し出、承諾する。

 残るアルワイド本領、ミラクを強襲で、プリケルマを兵糧攻めで落とし、ユーロパの全てのアルワイド領を制圧した。
 本領を任されていたアルワイド累代の将のうち、ダンカン、ダルトン、ファンベルジェといった面々は大人しく捕縛されたが、ベルイマン、アンドレのマドレイヌ親子が自決しているのが見つかる。

(どっちがマシとかそういう話でもないか…)
 トールは元々アルワイド家臣である者たちは解放し、アルワイド傘下だった家々の者たちはそのまま捕虜とした。解放されたくなさそうな素振りを見せた者もいたが、知ったことか。


 8月、カロン辺境伯のアルトゥロ・デラーノ(6 1 5)客将とする。
 アルマーズ家を臣従させ、メンカリナンに出陣していた軍を一旦退かせる。ハッサレーにいるアルクトゥルス軍がメンカリナンのフォローに移動してくるはず。そこを再び攻め篭城させ、ハッサレーは守備隊を削る。


 9月、トラファルガ領はハイランディアが豊作。税率は45。
 アルマーズ家のオルランド・アルマーズ(6 2 8)客将とする。


 10月、ザウラクに登場したアンスヘルム・ザウラク(4 3 7)を登用。
 ハッサレーメンカリナン制圧。アンブレオン以北は制圧し、次の相手は南ユーロパ連合となる。

264年1〜10月アンブレオン


 11月、アルクトゥルス伯が南ユーロパ連合との同盟を破棄。
 連合と従属下の教会に囲まれた状態では自殺行為と言ってもよい。

「イジルード卿は先年亡くなっていたな」
「我々がプラーヴィを攻略している頃ですね。連合と共にユーロパ公を攻めガーラに勢力を広げ、さらにアルテルフ領を併呑しようと言うときだったはずです。アルテルフ攻略は今の当主アルマンが引き継いだのですが…」
「ガーラの深くまで侵攻し過ぎて今の事態を招く、か」
「然様で」
「連合が伯領に戦力を割く分、こちらが連合領を掠め取る隙が出来るな」
「連合には当面手を出さないお積りだったのでは?」
「気が変わった。勢力を削いで従属させてやる。早いうち教会に目を光らせとかにゃならんしな」

 教会は連合の従属下にあったが、このところ多くの軍勢がアクベンスやブロッグの港から上陸しているらしいとの報告があった。推計だが、歩兵のみでも9万を数える兵力を今の教会は保持している。


 その一方、旧ユーロパ公都ビートルジュースではアルクトゥルス伯への対処を巡り方針が纏まり切らずにいた。
 南ユーロパ連合は、シュバインのサダルメリク家当主マルティン・ケア=サダルメリクがユーロパ南部の中小諸侯を纏め組織したものだ。アンブローシア本国勢力の影響がすぐに届くわけではなかったが、北のユーロパ公と南のカリスタ侯という、放置すれば確実に大勢力に育つだろう大領主に挟まれた地方で、それらに拮抗する勢力を作るのが生き残る道と判断したのだ。

 連合構成諸侯の代表者たちが喧々囂々とする様を、マルティン・ケアは黙って見つめていた。ユーロパきっての知恵者と見做される彼だが、知恵者ゆえ自らが組織したものの綻びを認識してしまっていたのだ。
「アルマンを従属させる時機を誤ったと、御考えのようだが」
 エドゥアール・ベルナドット、元ユーロパ公が横で呟く。
「…考えが顔に現るとは、私も参ってきたのですかね」
 同じく小声で返す。
「いや、カマを掛けてみただけだ」


 今は本家サダルメリク・分家サダクビアに分かれたケア家は、旧ユーロパ王国の有力家臣だった。忠臣だったと言ってよい。
 つい七年前まで良好な関係の近隣領主でもあった。
 アルクトゥルス伯及び西方教会と共にユーロパ公領を制圧したが、降伏した公はそのまま受け入れた。恨みがどうとか言う動機で動いたのではないからだった。
 だがそれが一部連合諸侯の違和感を呼んだ。押さえた旧ユーロパ公領を当面連合で管理することに対し、サダルメリク家で独占するのかと反感も呼んだ。マルティンは、この地で国の基礎を安定させることが出来ればプロセルピナ連邦のような合議制を政治機構に取り入れるつもりだったが、時期尚早であると考えるに至った。
 そして今あるは、アルクトゥルス伯との同盟破棄と、攻め込んでは来ないが既に連合の三倍の規模を持ち隣接するトラファルガ家だった。

「公、御聞きしたいのだが」
「何度も言うがもう公ではないよ」
「ではベルナドット卿、貴方はユーロパ王国再興をいつ諦められた?」
「周囲全て敵となった時だな。今のアルマンの気分も少しはわかるよ」
 特に西方教会との手切れは痛かっただろう。マルティンはそう考える。今の西方教会領を割譲したのはかつてのユーロパ・ベルナドット王家に他ならない。ベルナドット家の教会への援護はそれに留まらず、教会が分裂することなく今在るのは誰のおかげだろうか。
(傍観という手もあったではないか。それをあの枢機卿は…)
 だがユーロパ公らの身柄は別として、自らもその領地を奪うよう動いた一人なのだ。人のことを言えた義理でもない。ならば所詮、今のこの状況は自業自得、しっぺ返しか。マルティンは自問する。

「トール・グリペン卿の人柄は御存知か?」マルティンはエドゥアールに問う。
「少々会った程度だが…それに聞くところを加えると、そうだな、おそらく卿と呼ばれるのを嫌うだろう」
「ほう。曲がりなりにも王家に繋がる血筋じゃないか。変わり者ですかね?」
「父親の方はもっと知っている。いい男だったよ、傑物だった。あれにちゃんと育てられたのなら、息子もなかなかの者だろうが…」
「…が?」
「…ん。フレドリク・トラファルガにはある意味で致命的な欠点があった」
「なんだったのですか」
「無欲だ。信じられないほどのね」

 マルティンは議論という名の罵り合いになりつつある会議を見つめながら、ここにいるなるべく多くの者が体面を保つ手は何かを考えることにした。国境沿いに集結するトラファルガ勢と多少の間は対峙できる戦力、サダルメリク領を除けば接している連合領は旧ユーロパ公領だけ…
 まずは、アルクトゥルス伯と一時的でもいい、同盟交渉をすることにした。

※周囲全てを同盟国に囲まれた場合、ほぼ同盟破棄を行う。ゲーム上では単純な挙動に過ぎない。…のではあるが、今回相手から同盟破棄されるまで一切動かなかったケイニクラ家という例もある。ケイニクラ勢はこのときのアルクトゥルス伯領(34万)より小さく、ケイニクラ本体はさらにその三分の一という状態が差になって現れたのだろうか。


 南ユーロパ連合は、アルクトゥルス伯と再度同盟する。

264年11月ユーロパ

「ベラトリクス、サダルメリクから軍を引いた? どういうことだ?」
「主力はこちらのサダトニに面するメイサとビートルジュースにあるそうです」
「領地を切り取ってくれと言わんばかりですね」
「マルティン・ケアが何を考えているか…どう思う? クリス、レオ」
「玉砕したいわけでもないでしょうな」
「マルティン自身として考えてみたらどうでしょうね?」
「ふん…ここでメイサを獲れば領を接することになるアルクトゥルス伯はこちらに降るかもしれん。さらにこちらが制圧するのは旧ユーロパ公領と元々の自領のみか…」
 二人はトールの次の言葉を待つ。
「連合の意思統一ってのはそれほど堅くはないのか?」
「元々急造りではありますね」
「…サダトニの全軍をメイサの連合軍に向けろ。手抜きはするな。サダルメリクとベラトリクスには対守備兵の部隊を送り、メイサからの退路を絶つんだ」


メイサ侵攻戦
264年11月メイサ
攻撃側:トラファルガ家兵力 迎撃側:南ユーロパ連合兵力
騎馬4880 歩兵70920 鉄砲12270 騎馬5920 歩兵57740 鉄砲10570
大将 マクシム・オルタンス(5 3 9) 大将 マルティン・ケア=サダルメリク(5 6 10)

 奇襲失敗の報告を受け、マルティン・ケアは覚悟を決めた。先陣に砲撃命令を下す。  耐久戦のつもりだった。
「突っ込んできます!」
 戦力を一陣に集めたトラファルガ軍が間合いを詰める。近接砲撃戦となった。陣を二つに分けた連合の不利は見えた。だが凌ぎ切れれば…
 マルティンは陣交代の指示を出すが、結局は保たなかった。
 撤退を決めるがメイサは軍勢を収め切れない。兵糧は尽き開城する。武将の半数が捕らえられる。若手の武将アドリアン・アンペールは捕縛される前に自決した。

 ビートルジュースに退却した連合軍からは、もはやトラファルガに抗する気力が失せていた。撤退時の離散含め、5万7千の戦力の三分の二が失われた。
 数日を置かず捕縛された将たちが戻ってきた。部隊解散の上、即時解放されたのだ。
 これで、マルティン・ケア=サダルメリクの腹積もりは決まった。

※陣を一つに固めたプレーヤー側トラファルガ軍の優勢は動くべくも無い戦いだが、マルティン・ケアによる奇襲が起これば容易に引っ繰り返るものである。
 また、野戦初期配置のまま前進しなければ、撃ち合いで終わり決着が付かない戦力差でもある。鉄砲数が逆ならば士気の減少が早く、トラファルガ敗北で終わってもおかしくはない。


 12月、サダルバリス王家がアルワイド家と手を切る。

264年12月ユーロパ

 ビートルジュースは兵糧攻めで開城。サダルメリク家のニ将トマス・ラウルセン、グレゴアール・ヴェイガンが自決。捕虜となった将は再び解放する。

※武将解放はお話的には武装解除を進行させているが、ぶっちゃけた話ゲーム的には兵糧攻めを楽にしているのである。もっとも、連合の兵を減らし拠点を早く落とし、結果的に連合をなるべく早く従属させるよう進めている。


 アルワイド最後の拠点ギエナは、王家北分家ノルティエラの手に落ちる。アルワイド勢は王家北離宮アンゴラブを攻め、デミトリスらはまだ健在ではあるが時間の問題であろう。

264年勢力推移



 <王暦265年>

265年1月アンブローシア

 1月、息子らに説得されたヴラディミル・キファと、城が無くなったアルワイドの将を登用する。大半がハイランディアとプラーヴィの者だ。
 ヴラディミル・キファ(4 3 3)
 オーソン・マドレイヌ(4 4 6)
 イサク・アンデション・バハム(4 3 7)
 アンドレアス・ボルグ(2 4 6)
 ルーペルト・ユングベリ(6 3 4)
 アンテルム・サンクション・ビハム(5 7 3)
 ロードリク・シュデリベリ(5 3 4)
 ルーディガ・サンクション(3 8 2)
 ボリス・ヴァナディッチ(3 6 3)
 グレゴワール・グラース(4 4 3)

 またアルクトゥルスにてセレスタン・エルミート(7 3 1)が仕官し、登用する。

 南ユーロパ連合傘下のシェルタン家、メディア家が離脱。
 トラファルガはアルクトゥルス伯連合シェルタン家メディア家同盟

 ユーロパでやるべきことは終えた。軍勢の、中央への移動を開始する。


 2月アルクトゥルス伯を従属化。
 そして、王家と同盟破棄。いつかとは立場が逆だ。

「諸君は存じているだろうが、先日来王家にある申し立てをしていた。本日王家からの返答があり、それらは全て却下された。従って遺憾ながら実力行使でそれを確かめさせて頂くとする。しばらく逆臣の汚名を受けるやもしれんが、以下を肝に銘じよ」

 トールは一呼吸置き、言い放つ。
「我らが王はギルベルト・ユーリアス・アルワイドではない。フォビア・フラヴィウス・サダルバリスである」


 将たちがそれぞれの配置へと向かう。その中、シラー伯マティアス・グラントがトールに近づく。

「段取りと建前はまあ、及第点かな」
「そりゃどうも」
「王家が受けるはずの無い申し立てだからな、狡いと言えば狡い。だが必要なことだった。本当は近衛たる俺がやるべきことだったのだ」
「…こちらとしてはあなたを逆臣の巻き添えにしたんだ。悪いとは思ってるんですよ」
「何を言う。もう俺は貴公の配下だ」
「これで国内平定に多少手間取るかもしれません。先生の力を借ります。そう簡単に倒れられること無きよう」
「ああ…わかった」


 領を接する王家とノルティエラを囲むように軍勢を配置する。
 王家とノルティエラの軍勢の動きを読み、メンカルからノルティエラ領バテンカイトス、クラスからミンカル、マルファクからミラ、アルワイドから王都トゥバンを攻める。ただし王都のみ守備兵を削るためオーベルト隊のみ。王家軍勢は南のアルタイスを守ろうと動くだろうが、そうならなければ即時退却する。
 バテンカイトスミンカルミラ強襲にて制圧。王都守備兵を1200まで減らす。

265年2月


 3月、王家北離宮アンゴラブを落としたアルワイドが従属志願するが、当然受けない。
 ユーロパ・シュバインのアンカ市、カロン南方軍が王家から離脱。

 ミンカルからギエナ、ミラからディナダ、バテンカイトスからデネブカイトス、アマラク及びメンカルからノルティエラ軍3万8千の篭るカファルジドマ、アルワイドからトゥバンへ増援及びアルタイスをそれぞれ攻める。
 一方王家は、戦力集中がやや遅れたラスタバンに主力をぶつけた。


ラスタバン野戦
265年3月ラスタバン
守備側:トラファルガ家兵力 攻撃側:サダルバリス王家兵力
騎馬3530 歩兵57620 鉄砲10290 騎馬9090 歩兵73720 鉄砲14850兵力
大将 レオフウィン・メイベル(7 6 8) 大将 ギルベルト・J・アンブローシア(3 4 1)

 戦力差は不利、まともに戦えば押し切られ負ける。だがあっけなく勝負は決まった。
 アル・ナスル伯家臣ハセック・アキエルの計略により奇襲に成功、ギルベルト王子の本陣へ十倍のトラファルガ勢が襲い掛かる。本陣は一撃で四散し、王家軍は退却した。


カファルジドマ野戦
265年3月カファルジドマ
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:ノルティエラ家兵力
騎馬6620 歩兵63730 鉄砲11340 騎馬5700 歩兵37840 鉄砲7210
大将 アクセル・パウルセン(5 2 6) 大将 テオバルド・ノルティエラ(6 4 7)

 退路を絶たれたノルティエラ軍は打って出るも、トラファルガ軍に押し切られ退却。カファルジドマ兵糧攻めで落城し、当主テオバルド以下10名を捕縛。
 王都は次の強襲で制圧確実となり、その他の城も全て制圧に成功する。

265年3月


 4月、王家南分家デリフェルトとアルフェラッツ家が王家より離脱。
 南ユーロパ連合を西方教会込みで従属させる一方アンカ市と同盟し、サダルメリク家領サダルスウド攻めを止める。
 シルマ家が王家からの鞍替えを求めてきたので許可する。

 ギエナとミンカルに軍勢を置き、アルワイドを足止めする。
 アルワイドから6万9千の増援をトゥバンへ、ラスタバンから王家主戦力の篭るグルミウムへ7万4千、デネブカイトスからフリア・ロハのアシメクへ7万をそれぞれ出陣させる。
 アシメク王都トゥバン強襲にて制圧
 グルミウムでは、おそらく王家との最後の野戦となるであろう戦いが始まった。


グルミウム野戦
265年4月グルミウム
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:サダルバリス王家兵力
騎馬4040 歩兵73580 鉄砲13520 騎馬7760 歩兵59650 鉄砲12700
大将 レオフウィン・メイベル(7 6 8) 大将 ギルベルト・J・アンブローシア(3 4 1)

 戦力的にはほぼ、先のラスタバン戦と逆となっている。トラファルガ軍は本陣の前に少人数のザファー・アキエル隊を置き、そのさらに前に残り全軍を扇状に配置する。
 王家軍は戦力をニ陣に分けるが、互いの正面戦力にさほど差は無い。
「撃てっ!」
 攻撃命令を出しながら、レオフウィン・メイベルは後悔していた。読みを違えたのだ。予想以上に相手の前面は厚い。攻撃力はこちらが二割五分ほど上だが、このままでは消耗戦で終わる。
「前へっ!」
 陣を前進させた。間合いを詰め押し切るより無い。
「撃てぇっ!」
 勢いが足りない。
「前ぇい!」
 もう一度陣を押し出す。敵の砲撃で前陣の一部が蹴散らされる。
「撃てーっ!」
 まだ足りない。
「前ぇーっ!」
 死傷者を巻き込まないようさらに前に出る。
「撃て!!」
 やっと王家軍の陣が乱れ始めた。レオフウィンは舌打ちした。
(トール様のように一気に前進するのが正解だった…)


 王家軍はグルミウムに退いた。この戦いで、王家家臣カミル・リボーレクと、王子の母マドレイヌ・アルワイドが戦死した。
 さらに篭城戦でグルミウムが落ちる
 母を追うようにギルベルト・ユーリアス王子自刃。家臣マサイアス・セナペ、ターコイス・マイオスが付き従い逝った。

 王子自刃を知ったレオフウィンは、フォビア王の時ほど憐れみの情が沸いて来ない自分を訝った。自分より年下の、いかにも周りに翻弄されましたって奴なのにどうしてだろうか…。
 デミトリスの甥だからか? …それがこの感情の理由なら自分も周りに流されているのかもしれない、彼は冷静であろうと努めた。

 グルミウム戦の最後、王子の叔父、最後のサダルバリス王家の血筋の者となったヴァイタリス・クロードを始め十二名を捕縛。あと二名の将がいたがどうにかグルミウムの港から脱出したらしい。
 ヴァイタリス・クロードはいくつかの尋問の後解放。バッカス列島に残るわずかなサダルバリス家領当主として港を出ていった。

265年4月


 トラファルガ家は王都トゥバンに入城した。
 トールはまだやることが残っているとレ・ブルゥに留まったため、当主代行としてクリステンとエーリックが王城に入る。

 エーリックは制圧された王家軍の解体とトラファルガ軍への再編の指揮を執る。
 一方クリステンの王城での最初の大仕事はいささか剣呑なものだった。
「王の墓所を開けよ」
 捕虜となった王家家臣の多くが蒼ざめた。
「先年崩御されたフォビア王及びフィオレンツァ王大后の御身体を検分させて頂く。結果如何では王族の皆様も遡り検分する」
 トールが行った王家が受けるはずの無い申し立てとは、まさしくこれであった。



 蛇足である。
 ヅィバン家及び南から戦力圏を伸ばしてきたアクラブ伯に挟撃されたディルガン宰相家が全ての領地を失った。ヅィバン領を攻める軍勢だけは残るが、事実上の滅亡である。
 宰相アルフォンス・ディルガンはどうにか脱出し、アルリシャ伯を頼りにしたという。


 その報告を聞いたトールは居室に戻り一人になると、大声で笑い出した。
「よりによって、アリアベルタに助けを求めるか。求める方も求める方だが、受ける方も受ける方だ。…だが、これで宰相は手も足も出なくなるだろうよ」
 笑いが収まると、少し虚しくなった。

「人を嘲笑ってる場合でもねえよな…」




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第ニ章での勢力推移
トラファルガ家第ニ章勢力推移
王暦265年5月当初のアンブローシア勢力図
265年5月アンブローシア勢力配置

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