<第一章 眠れる翼獅子>

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 アンブローシア連合王国現王朝サダルバリスは、統治期間二百数十年を重ね、この時代では有数の名家となっている。
 サダルバリス家はハイランディアの南西部、とくに古ハイランディアと呼ばれる地域の地方領主を出自とする。
 王家となる前のサダルバリス家のかつての領地は二つに分かたれ、その西半分は、この時代トラファルガ家の領地となっている。
 そもそもサダルバリス家自体がトラファルガ家の分家であり、その縁から王家はかつての居城サダルバリを含む地域を本家に任せた。かれこれ二百年は前の話だ。
 その当初王家は、「本家」に王の弟たちによる四つの分家と同様、その統治力の一角を担うことを期待していたが、この「本家」はただただ一自治領主を通した。
 そしてそのまま、二百年余りは過ぎた。

 連合王国はいまだ世界随一の交易産業国家の地位にはあったが、さしもの王家の統治力に翳りが見られ始め、国の内情は徐々にきな臭いものとなっていた。



 サダルバリス王暦257年初頭、西方教会のザンクト・プレセペス大聖堂で行われた年越えの儀から戻った、トラファルガ家当主トール・グリペン・トラファルガは、サダルバリ城の居室のテラスから、フライエル湖の湖面を眺めていた。

「大聖堂の様子はどうだったか」
 後ろから声が掛けられる。
 前当主、トールの父、フレドリク・シグ・トラファルガだ。体調不良を理由に、先年当主の座を息子に譲っていた。

「どうもこうもない」
 特に感情を込めるわけでもなく応える。
「腹の探り合いの見本市が立っていたよ。盛大だったねぇ。トーレス北辺伯は穏やかだったが、腹は煮え繰り返っていたろう。アルワイドは親父の言う通りかもしれん。ディルガンは相変わらず。アーサー・ヅィバン…前議長は来なかったよ。ソーマ公も、ネクトール公もだ。ああ、アルリシャの姫もだな。目の保養が出来なかったとカリスタ侯が笑っていたよ」
「侯はなんと?」
「戦はしたくないが、避けられそうに無いかもしれない、だと」
「そうか」
「俺とは戦いたくないと言われたよ。ふん、買い被られてるね」
「そうでもない。ならばお前に座を譲った私は馬鹿か?」
 顔を合わせて笑った。声は出さなかった。


「…親父」
「なんだ」
「背中が痒くなることを言うが、親父は良い領主だった。死んだ爺さまもだ。王国の重鎮にも負けないと思う。だが親父たちは中央を目指さなかった。請われたことだってあったはずだぜ? ついこの間まで、俺はそれが不思議でならなかった」
「…ふむ」
「まさか、あんなものがあんなところにあるとは思わなかった。この目で見なければ信じられないことだ。そりゃ、ここを動けるわけが無い。…で、俺はどうしたらいいか決められない」
「前に言ったはずだ。好きにすればよい」
「戦になるぜ」
「お前は言った。誰かが早く終わらせれば良い。それで良いのだ」

   
王暦257年2月 ハイランディア初期状況
257年2月ハイランディア



<王暦257年2月>
 月が開けて間もなく、アンブローシア各地において小競り合いが始まっているとの情報が続々と入ってくる。
 トールは重臣(とはいうが皆親族である)を集め、トラファルガ家の採る道を審議に掛けた。だが審議ではあるが、皆腹の内は固まっていたし、それなりの準備は進めていた。
 城の防備の決済を下したとき、知らせが入った。
 サダルバリの隣、王家離宮メンキブよりの使者だという。
「誰が来た?」トールは問う。
「メンキブ駐在使メイベル卿の御子息、レオフウィン様です」
「通せ」

 レオフウィン・メイベル、離宮メンキブを守るレオフリック・メイベル男爵の息子。
 国内がきな臭くなる前はよくトールの元に遊びに来ていた少年だ。時折見せる才気には、トールも舌を巻いたことがある。
 一年振りほどの再会だった。何の使者かも概ね想像がついた。

 トールの前に出たレオフウィンは、滑らかに口上を述べる。
「アンブローシア連合王国、国王フォビア・フラヴィウス・アンブローシア=サダルバリス3世の命である! ハイランディア領主トール・グリペン・トラファルガは速やかに王家に領地を引き渡し、降伏せよ。さもなくば…」
「…嘘付け」
「はい、そうでしょうね」
 口上を遮ったトールに、レオフウィンは表情一つ動かさず応える。
「あの王が、こんな馬鹿らしい命など下さないでしょう。おそらくは…」
「わかってる、言うな。お前には立場は無いのか」
 トールは再び遮る。
 トラファルガ家は、曲がりなりにも王家の本家筋であることから、王家との関係は対等同盟という形式を採ってきた。
 これが解消されるということは、王家の命を受けたとされる何者かによる討伐の対象になるということだ。結局、選択肢は向こうからやってきたのだ。
 トールはレオフウィンに問うた。
「この期に及んでは、俺はまずメンキブを攻める。いいのか?」
「攻めてください」
「そう来たか」
「王家から軍が派遣されるわけではないのです。初めからメンキブは摂政殿の軍勢がバハムを落とすまでの捨て駒なのでしょう。攻めていただいた方が父の面目も立ちます」
「わかった。メイベル卿には、頃合いを見て逃げるよう伝えてくれ」


「一応敵となる者に口が軽過ぎますが、よいのですか?」
 シェアト城主を継いだクリステン・エンドラケンが訊く。トールへの念押し。これは慎重な彼の役目だ。
「あいつが俺を欺こうと考えていても、やることは変わらん」
「然様で」
 トールはクリステンに、シェアトにて王都北面守備役アルフェラッツ家の牽制を命じ、同時に出陣中の内政を任せる。
 次にサダルバリの港に交易船を追加手配、計5隻による内陸交易の指示、その後直ちにメンキブへ出陣した。

           

トラファルガ家初期配置武将

能力値
トール・G・トラファルガ8 4 8当主
フレドリク・S・トラファルガ 5 7 9 前当主
エーリック・H・ヴィゲン 7 3 2 先鋒隊隊長
ヒューゴ・Y・ヴィゲン 7 1 3 エーリックの父、先代先鋒隊隊長
クリステン・エンドラケン 6 5 4 シェアト城主
イェルハルド・エンドラケン 5 6 5 クリステンの父、先代シェアト城主

   
メンキブ離宮攻城戦開始
257年2月ハイランディア
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:メンキブ城兵力
騎馬550 歩兵2510 鉄砲1600 騎馬300 歩兵1000 鉄砲600 城兵400
大将 トール・G・トラファルガ(8 4 8) 大将 レオフリック・メイベル(3 5 3)
 レオフウィンからトールの意思が伝わったのか、メイベル卿は篭城。
 トールは離宮を包囲、篭城戦となる。



<王暦257年3月>
 メンキブの向こう、北コリドールのヅィバン諸侯会議前議長傘下のバハム家は、アルワイド摂政傘下のビハム家との対決を余儀なくされた。
さらに北、プラーヴィでも前議長派と摂政派の衝突が始まっている。

 トラファルガ家にティバールド・メルベリ(3 3 3)が仕官。
 篭城戦に参加していない三名(エンドラケン親子、メルベリ)に兵を補充。南のアルフェラッツ家への押さえとする。

 ネクトール公傘下のドランブイ家がデーニッシュ侯に落とされ、デーニッシュ侯傘下のサンブーカ家がネクトール勢に落とされる。これらは初めて戦により取り潰された家となった。
 また近隣では、バハム家攻めで手薄になっていたビハム家領ホマンをフライエル湖東側の自治領主アルゲニブ家が攻め始めた。



<王暦257年4月>
 ビハム家のバハム攻め、アルゲニブ家のホマン攻めは、共に篭城戦となっていた。
 この月の間に決着がつきそうなトラファルガ家のメンキブ攻めと違い、落城までまだ数ヶ月を要するようだったが、アルゲニブはアルワイドと不戦同盟を結んだ。これでビハム家(アルワイド勢)は、後顧の憂いがなくなった。

 待機三名にさらに兵補充。ただし、エンドラケン親子は兵990に対しメルベリは500とする。鉄砲がわずかなメルベリ隊を、城守備兵を引きずり出す囮部隊とするためだ。メルベリ隊へは、新規購入分の鉄砲を与える予定だ。

 メンキブ陥落。
 メイベル卿は降服し、トラファルガ家に捕縛された。

「予想外の早期に攻められ、篭城するも救援が来るまで保たず。ということにしてもらえるのか?」
 トールは傍らのレオフウィンに訊いた。離宮での、身内だけの会食中のことだ。
「いささかわざとらしかったですけどね。形だけは整っているんじゃないですか? いずれにせよ、メンキブ離宮はあなたがたの手に落ち、父は捕虜、家族は人質。面目がどうだろうと王家への忠誠がどうだろうと、メイベル家にはこれ以上どうしようもありません。トール様がこのように人質に寛容で助かりました」
「よく食う人質だ」
「…ああ、御飯が美味しい」

 へらへら笑っていたレオフウィンが不意に真顔になった。
「…トール様」
「なんだ」
「猿芝居だろうがなんだろうが、降服を即決したのは父です。僕は抗戦を主張しました」
「ほう?」
「敵わずとも一泡は吹かせられると思ってました。父は政務はしっかりしてますが、それだけの人だと思ってましたから…」
「尊大な息子だな」
「…その通りです。でも父は、あなたの性格を読んでいました。そして言った通りになりました。僕はあなたがその気ならメンキブを強襲するだろうことを恐れ、王家への面目を保とうとしただけです」
「それから?」
「今回のことは、全て僕が考えたことにしろと。トール様が僕を認めるだろうからと」
「卿らしいな」
「…はい」

 ひとしきり食べ終えた後、レオフウィンはトールを初めとした面々に頭を垂れた。
「父レオフリックを初め親族は無事。守備兵の損失は無きに等しく。深く、深く感謝いたします。父に代わり申し上げます。メンキブはトール様に従います」



<王暦257年5月>
 メンキブ攻めをしていた四名の部隊に兵補充。一律750とする。残りの補充兵はメンキブ守備へと回す。
 アルゲニブ家が攻めていたホマンは守備兵が減っている。だが。
「アルワイドが守備に回るでしょうね」
「アルフェラッツの件もある。今は待機だ」

 アルワイドは、摂政の子オーヴィルを初めとする五部隊をホマンに移動させた。メンキブのトラファルガ軍よりやや大きい。
「こりゃ、来るかな?」
「五分五分でしょうか」
 情報収集した彼我の戦力差からクリステンは微妙なところだと考えたが、アルワイド側には果敢な人物がいたらしい。軍勢がメンキブへと迫った。


メンキブ守備戦
257年5月メンキブ
守備側:トラファルガ家兵力 攻撃側:アルワイド家兵力
騎馬 550 歩兵3230 鉄砲1600 騎馬1430 歩兵3660 鉄砲1800
大将 トール・G・トラファルガ(8 4 8) 大将 アデライド・ダンカン(4 3 3)

 歩兵数の差はさほどではないが、騎馬と鉄砲では相手を凌駕している。そう考え出兵したダンカンだったが…
 …おかしい。メンキブが見えてきたというに、トラファルガと遭遇していない。

 ダンカンが隊列を組み直そうかと考えたとき、後方がざわめいた。
 振り返ったダンカンは己の読みの甘さを呪ったが、もはや手遅れでしかない。
 後方から、トラファルガ軍が襲い掛かった。アルワイドの主力は前方にある。ダンカンの本陣が見る間に崩れていった。
 前陣のオーヴィル・アルワイド(5 3 2)が救援に向かおうとするも、スタニック・コーエン(2 4 6)が制止する。
「何故止める!?」
「間に合いません。前陣までもが崩される前に退くのが肝要。再戦はあります。此度は相手を甘く見たダンカンの失策、若様に責はありませぬ」
 オーヴィルは歯噛みした…。

 ダンカンの本陣は半壊し退却。残りの部隊もいくらかの脱落はありながらも、ほぼ戦闘前の状態を保ち退いた。
 どうやら、メンキブに向かってきた軍勢はトラファルガのホマン攻めへの牽制もあるが、本来バハム攻めの加勢だったらしい。
 加勢分を割いてしまったためにバハムを攻め切れなかったアルワイド勢は、ビハムに退いていた。



<王暦257年6月>
 ハイランディアに大雨
「アルワイドから、同盟交渉の使者が参りました」
「何考えてやがんだか、流石は摂政。ヅィバン勢にてこずっておりますとわざわざ意思表示か」
「如何に」
「今の国力じゃあアルワイドにゃ勝てん。ここは不戦同盟し勢力を広げる。まずはアルフェラッツを攻める」

 アルフェラッツ家は王都トゥバンの北面守備を代々任されている家だ。そのため、当主フィリップと弟ヴィンセンは王都の北アルラキスに詰めたままだった。
 本領であるハイランディア領には前当主ペーテルがいるものの、その戦力はトラファルガ家と相対するには足らなかった。

「バハムがどれだけ粘るかが案外重要なんですよね?」
 レオフウィンが口を挟んだ。
「黙れ。お前は一応軟禁中の身だ」
「その後ハイランディアを手薄にしてアルワイドとヅィバンが削り合ってくれれば御の字ってところですか…」
「だから黙ってろ」

 シェアトに全軍を集結させ、メルベリを除く六名でアルフェラッツを攻める。


アルフェラッツ野戦
257年6月アルフェラッツ
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:アルフェラッツ家兵力
騎馬750 歩兵5400 鉄砲2400 騎馬610 歩兵4560 鉄砲760
大将 トール・G・トラファルガ(8 4 8) 大将 ディートリク・アンデション(3 4 3)

「本陣は新顔なのか?」
「率いる歩兵が少ないために後ろに回されただけのようです」
「直に交戦する戦力を優先したのか…」
 大雨のため鉄砲での間接攻撃はできない。隊を二手に分けたアルフェラッツに対し、トラファルガは兵力を第一陣にまとめ前進する。
 アルフェラッツは陣を入れ替えながら対抗するが、押し切られ退却。
 ディートリクを残し、武将たちは後方のアルゲモに退く。トラファルガ軍はそのまま城を包囲した。



<王暦257年7月>
 アルフェラッツの包囲を一旦解き、シェアトに退く。
「本当にいいのか、兄貴?」エーリックがその理由を糾す。
「あちらもそう考えるさ」
 トールはそれだけ答えた。

   
257年7月ハイランディア
 これは普通に強襲あるいは兵糧攻めで落ちる状態である。
 が、資金の節約及び最短期間でアルフェラッツを落とすには守備兵を減らす→強襲がベスト。
 以降の城攻めも基本的にはこのパターンを採っている。この場合では戦略フェイズの移動前の状態から、アルゲモのアルフェラッツ勢は移動して来ず、守備兵に対する部隊だけ差し向ければ済む。
 だがいよいよ城が落ちそうなときは必ず救援が来るので、強襲前は城攻め部隊を下げないでおく。

 アルフェラッツ勢はアルゲモを動かなかった。エーリックは合点がいった。トールの読みは当たったのだ。
 だが、アルフェラッツの兵力を削らねば、今のトラファルガの兵力では城を落とす時間が掛かり過ぎる。
「釣り出し戦法だな。兄貴、俺に…」
「いや、私に任せなさい」
 フレドリク・シグが言った。
「お前たちは強襲に向けて兵力の補充をするのだ」
「しかし、フレドリク様…」
 フレドリクが当主の座を譲ったのは、そもそも体調が思わしくないからだ。家臣たちが引き留めようとするは当然だった。だが…
「親父を行かせてやってくれ」トールの一言で場は収まった。


 フレドリクの部隊の出陣前夜、エーリックの父ヒューゴ・イェーオリ・ヴィゲンがフレドリクの居室を訪れた。
「御屋形様、酌み交わしましょうぞ」
「よいのか? 身体に響くぞ」
「それはお互いさまです。名ばかりの酒ですが、味はまあまあですぞ」
 ヒューゴもやはり、身体の衰えから息子エーリックに役を譲っていた。フレドリク共々、このような事態にならなければ戦地に立つことは無かっただろう。
「御身体の具合はいかがでしょう?」
「ん? …ああ、今しばらくは大丈夫だろう」
「魔女の処方箋が効いていますかな?」
「ああ、痛みは少なくなった」
「…驚きましたよ。あの者は前に会った際と見た目が変わっておらん。本当に魔法があるのかと…」
「君も聞いただろう。魔法ではない、だがそう見えても仕方がないそうだ」
「あの者が現れたということは、我らの秘事がそうではなくなる時が近いということでしょうな」
「そうだ」
「胸に遺したまま墓場に持っていくものと思うておりましたが…」
「そういうわけにはいかない、と彼女は言っていた。あれに遺されていたことが我らの過去ならば、覚悟せねばなるまい。だが、我らは先が無い…息子らを信じ託すしかないのだ」
 二人は押し黙り、しばらく杯を交わした。
 時期というものがある。それが息子たちがまだ若く、自分らは晩年を迎えたときに来たのが、いささか無念ではあったのだ。
「…トール様も、息子もよくやっておりますな」
「武官の教えが良かったからだよ」
「妙な気分ですなぁ…もう少し若く身体も万全なら存分に腕を振るえるものをという気持ちと、息子たちの姿に満足する気持ち、戦など味合わせたくなかったという気持ち、…色々とない交ぜで、妙な気分です」
「“雷撃”と呼ばれた君でもそうなのか?」
「はは、もう昔の話です。今は見る影もありません」
 酒とは呼べないほど度の弱いものを、二人は酌み交わした。初めから酔うためではなかった。


 フレドリク率いる部隊はアルフェラッツに篭るディートリク及び守備兵を野戦に引きずり出す。


アルフェラッツ第二次野戦
257年7月アルフェラッツ
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:アルフェラッツ家兵力
騎馬100 歩兵 790 鉄砲400 騎馬 60 歩兵1500 鉄砲 60
武将 フレドリク・S・トラファルガ(5 7 9) 守将 ディートリク・アンデション (4 3 3)

 兵力に勝るが鉄砲が少ないアルフェラッツ勢は、勝機を求めフレドリクの部隊に向かってくるが、鉄砲斉射を受け接触する前に敗北。
 ディートリクはアルゲモに逃れ、フレドリク隊は半減した守備兵のみになったアルフェラッツを包囲した。



<王暦257年8月〜10月>
 シェアトに現れたテーオドル・アルベック(4 2 4)が仕官。彼の手持ち部隊に兵を補充し、他部隊に揃える。

 アルゲモのアルフェラッツ勢を牽制するため、フレドリク隊を一旦退き、再び攻める。
 守備兵の釣り出しに成功し、野戦で退けた後強襲する。守備兵は250まで減った。


 9月、 ハイランディアの収穫は通常。税率は45とする。

 ヒューゴ・イェーオリが倒れ、間もなく息を引き取った。
 兵はトールが引き継いだ。

 マタルにてアクセル・パウルセン(5 2 6)が仕官する。テーオドルの同様の部隊編成をする。

 全兵力でアルフェラッツ強襲を開始。アルゲモから救援軍が来るが難無く追い返す。
 しかしアルフェラッツ城の防備は固く、よく持ち堪えた。二月で落とす計画が狂ったかもしれない。
 軍を待機させた後、トールはヒューゴの死を父に伝えた。
 フレドリクは少し寂しげに、「そうか」と一言だけ言った。

 報告がいくつか入る。
 バハムが間もなく落ちるであろうこと、ディルガン宰相の勢力が瓦解しかかっていること、プロセルピナ連邦が王家との不戦同盟を破棄したこと…。

 10月、強襲を続ける。この月の間ぎりぎりでアルフェラッツを陥落させる。
 一息ついたトラファルガ軍に、同じ頃バハムが陥落したとの報告が入った。これでハイランディアの北部は完全にアルワイド家の勢力圏となった。

   
王暦257年10月 ハイランディア
257年10月ハイランディア



<王暦257年11月〜258年6月>
 アルフェラッツで領地を接することになったアルゲニブ家が同盟破棄。
 だがこちらから交渉に伺わせると再同盟となった。

「テオドリクのやつは何考えてやがんだ」
 アルゲニブ家当主テオドリクは、レオフウィンと同じく、よくサダルバリに遊びに来ていた馴染みだった。
 先年兄を差し置き当主に就いたが、若年ゆえ発言力は抑えられていると聞く。
「うちと違い領主ですからねえ…」レオフウィンが応える。
「アルワイドとの同盟条件が気になるところですね」
「…しのびないねぇ」
「お互い生き残りを掛けてるんですから、情は禁物です」
「お前な…」

 アルゲニブとの交渉役にフレドリクを残しアルゲモを攻める。
 アルフェラッツ勢は野戦で抵抗を見せるが兵力差は否めず城に後退する。篭城戦で城が落ちるまで4,5ヶ月。

 12月、サダルバリにアクセルの父、ニコライ・パウルセン(2 5 5)が仕官。

 アルゲニブ家が再度不戦同盟を破棄する。今はまだ複数の交戦相手をもつ余裕は無いのだが…
「シェアトに退く。こちらがどっちを攻めるかわからなくしてやるんだ」
「で、どちらを攻めます?」
「もちろん先に落ちそうな方だ」

   
王暦257年12月 ハイランディア
257年12月ハイランディア

 アルフェラッツにトラファルガ勢を集める。兵力はアルフェラッツ家が半分以下、アルゲニブ家がほぼ互角であるため、両家のいずれかがこちらに攻めてくることはおそらく無い。そう読んで、トールは再度アルゲモ攻めに移る。


 年が明けて王暦258年1月、元々アルゲモからは一旦退く予定だったが、大雪がそれを早めた。軍はアルフェラッツに戻る。
 居室に戻ったトールを、レオフウィンが出迎えた。
「なんだレオ?」
「父にお会いください、トール様」
「メイベル卿を口説き落とせたのか?」
「はい。時間が掛かりすぎましたが」
「構わん。御父上は王家家臣としての筋を通したかっただけだ。それを曲げさせようってのはこっちの方なんだぜ」

 レオフリック・メイベル(3 5 3)を登用する。
 メイベル卿を長とする内政用軍団を組織し、資金を支給する。
 続いて、いずれ始まる対アルゲニブ戦に備え兵を補充する。アルゲモ攻めが振り出しに戻ったものの、補充の機会が回ってきただけ良しとする。
 また、国内での鉄砲生産が開始された。今の購入元の一つが気に入らないトールにとっては良い知らせだった。

 アルフェラッツに二部隊を残しアルゲモに向かう。しばらくは部隊を入れ替えての兵補充、アルゲモの兵糧攻め、そしてアルゲニブへの牽制の繰り返しだ。

 4月、包囲戦の中、アルフェラッツ家前当主ペーテル逝去。
「アルラキスの兄弟とは会えず仕舞いにさせちまったな…」
「悔いがありますか? トール様」
「いや、クリス。立場替わればってやつだよ。何がどう入れ替わったっておかしくないんだ」
「…御父上はまだ御元気そうですが、先年倒れられた際は…」
「いや、わかってるって。…覚悟はしている」
 その次の言葉をトールは飲み込んだ。
(ただ、覚悟がどうとかって話でもないって気もするのさ)

 6月、アルゲモ陥落まであと一歩というところでトールは決断する。
「テオに引導を渡すぞ」
 鉄砲保有数別に軍勢を二つに分け、鉄砲隊の多い主力をアルゲニブへ、もう一方をアルゲモに向けた。


アルゲニブ第一次野戦
258年6月アルゲニブ
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:アルゲニブ家兵力
騎馬 480 歩兵8020 鉄砲2400 騎馬1510 歩兵8680 鉄砲1200
大将 トール・G・トラファルガ(8 4 8) 大将 テオドリク・アルゲニブ(7 4 6)

 フレドリクの計略により奇襲が成功する。テオドリクの本陣を急襲した。三倍の兵力の急襲を受け、本陣は崩れアルゲニブ軍は退却する。アルゲニブ軍はマルカブまで後退する。
 一方アルゲモは、兵糧が尽き陥落した。アンデルス・ラーションとディートリク・アンデションを捕虜とする。



<王暦258年7月〜259年2月>
 捕虜のうちディートリク・アンデション(3 4 3)が仕官を申し出たため登用する。
 アルフェラッツ家の長老、アンデルスは解放する。

 トラファルガ家はハイランディアで最大の兵力1万4千を擁するに至る。資金も事前の蓄えが同規模の家に比べ豊富だったため未だに40万と多い方なのだが、収入の主な部分が秋の収穫である今は、これを大事に使わなくてはならなかった。
 従って攻めの方針はこれまでと変わらぬままだ。
 アルゲモに戦力を集め、領地を接したプロシオン家を牽制しながらアルゲニブ城の守備兵を削っていく。

「シャミイヤにプロシオン家が部隊を移動。その数1万を超えます」
「こちらは1万4千。無闇に攻め懸けてくることは無いだろうが、考えどころだな」
 プロシオン家は、カリスタ内陸南部のケイニクラ家の従属勢力だ。ケイニクラは北はカリスタ侯と東は王家と不戦同盟を結んでいるため、未だ先端を開かず戦力を温存したままである。
「ケイニクラ家と不戦同盟を結ぶか、それともその向こうのカリスタ侯と結ぶかだな」

 アルゲニブ攻城戦にはまずクリステンを向ける。守備兵を1670から960とした。

 8月、歩兵600のメルベリ隊に鉄砲を補充する。アルゲニブ守備兵の釣り出しをより確実にするためだ。  メルベリ隊は守備兵部隊の急追を受けるもどうにか凌ぎ、兵数960から560とする。

 9月、ハイランディアは豊作。税率は40とし収入の半分をメイベル卿の内政団へ送る。
 兵力補充。総兵力1万6千に。
 メルベリ隊はアルゲニブ守備兵を300にする。

 10月、もうアルゲニブ家は様子見で済まさないだろう。メルベリ隊を加勢し1万6千の主力を出陣させた。アルゲニブ救援に出てきたアルゲニブ家7千と邂逅する。


アルゲニブ第二次野戦
258年10月アルゲニブ
攻撃側:トラファルガ家兵力 守備側:アルゲニブ家兵力
騎馬 410 歩兵16500 鉄砲3150 騎馬1390 歩兵 7110 鉄砲1200
大将 トール・G・トラファルガ(8 4 8) 大将 テオドリク・アルゲニブ(7 4 6)

 倍以上の戦力差があるにもかかわらず、アルゲニブ軍は退こうとしなかった。だが第一陣が崩されば戦闘継続を諦めるしかなく、退却。
 トラファルガ軍はアルゲニブ城への強襲を開始する。堅城アルゲニブはしかし、その能力を発揮するには人が少なくなり過ぎていた。


 翌11月、再びアルゲニブ軍の救援があったが難なくこれを退け、アルゲニブは陥落した。
 だがその背後を突き、プロシオン軍がアルゲモを攻める。
「アルゲモ守備隊を信用しろ。しばらく持ち堪えてくれる」

 12月、アルゲニブ勢の篭るマルカブを包囲する。攻められていたアルゲモはケイニクラ家と不戦同盟を結ぶことでプロシオン軍を退かせる。

 そして三ヶ月の包囲戦を経て、翌259年2月マルカブ陥落
 アルゲニブ家はその領地を失い、トラファルガ家はハイランディアの三分の二を直轄とする。
 兵の損失はお互い三度の野戦の際のわずかなもので済み、アルゲニブ軍は武装解除のち解体。五名の武将は全員捕虜となった。


「さて問題はだ」トールが話を切り出す。
「テオたちがこちらの思惑を汲んでいるかだが…」
「賭けましょうか?」クリステンが応える。
「アルゲニブの首将アウグスト・スヴェンソンに、『敵に対しやり方が手緩い』と言われます」
「俺もそう言われる、に乗った」エーリックが重ねる。
「僕はそのおかげで助かったので、義理があるからパス」とレオフウィン。
「これは賭けになりませんかな?」これはイェルハルド。
「ですな」「ですね」そしてアクセル・パウルセンとテーオドル・アルベック。
「…おまえら」

 トールたちの前に、テオドリクを初めとしたアルゲニブの将たちが連れてこられた。自分らの処分についての話となるのだ。首将アウグストを除き、いささかの緊張を伴っていた。

「面と向かうのは久しぶりだな、テオ」
「…はい」
「よく俺の前に立ち塞がってくれた…」
「…我ら、許しを乞う考えはありません。トラファルガとは親しい仲でありましたが…」
「いい。お前らの立場だってあったのだ。生き残ろうとする手段のいずれかを選んだに過ぎん」
「…そして、負けました。手をこまねき、最後は包囲され開城を余儀なくされました」
「いいじゃないか。なるべく無駄な血が流れずに済んだ」
「それは兵士たちに代わり礼を申し上げます。しかし…」
「しかし、なんだ?」
「我らは長き縁を一方的に破り、あなたの敵となったのです」
「だから?」
「我らの身はトール殿の掌中にあり。如何な処分も甘んじてお受け致します」
 テオドリクは目を閉じ、トールの答えを待った。国中で戦端が開かれたのだ。彼にも覚悟は出来ていた。
「わかった。では配下になれ」
 呆気にとられた。
 そのしばしの沈黙の後、テオドリクは口を開く。
「…何故です」
「何故って?」
「戦国が始まったのです。己に弓引いた者どもに、何故配下になれと…」
「テオ、ハイランディアの家々の仲は元々良い。俺はお前のおむつを替えてやったこともある。そんなやつを牢屋行きにするとか、ましてや首を刎ねられるわけがない。大体アルゲニブを滅ぼしたつもりはないしな」

「手緩い!」アルゲニブの首将、アウグスト・スヴェンソンが叫ぶ。
(…あ、やっぱり)
(賭け以前の問題でしたな…)
 トラファルガの者が誰とはなくそう考えているのを知らず、アウグストは続けた。
「トール殿は敵となった者に甘すぎる。国中を巻き込む戦が始まっているのです! 一度敵となった者を許すなど言語道断。戦国なのですぞ、例えこの身は許されようと、そのような思慮の甘い者の下になど就けませぬ」
「そうか」トールは少し考える振りをした。
「では、死ぬか」
「…」
「だが、どうせなら俺の下で、戦場ででも死んでくれ。くだらない戦だが、少しでも早く終わらせられるなら死ぬ意味もあるかもな」
「…くだらない、戦ですと」アウグストは唇を噛んだ。
「ああ、くだらない。大体なんだ? 戦国だと? シグムンド・ヴィゲンが収めたあれのことか。いつの話だそりゃ? そもそも今がそうなのだと一体誰が決めた?」
「誰が決めるものでも…」
「内輪揉めではないまともな戦など、三十年前のカロンとの小競り合い以来あったか? 無いだろう。…去年亡くなっちまったヒューゴ以外、それに参加した将さえここにはいないはずだ。誰も実態を知らない、二百五十年以上前の書物や言い伝えに残るばかりの流儀に律儀に従うのか。そうしていいものだってあるさ。そりゃあな」
 トールは声を荒げることもなく、落ち着き払って言葉を続けた。大きな声ではない。だがマルカブ城の広間の隅々に行き渡る声だ。
「国が衰えればときに戦が起こり、新たな国が興る。自然な流れだ。アンブローシアは世界有数の金持ち国だが、そういう流れになることもあるさ。それはいい。…だがな」
 テオの横にその兄マウリッツがいた。トールは彼に問い掛ける。
「マデレーネ姫はどこに行かれた?」
 マウリッツの顔が引きつり、平静を装えなくなった。
「どこにもお見えにならない。まさか、亡くなられたのか?」
 アルゲニブの者たちは押し黙る。トールはその様子を見て軽く息を吐く。
「すまんな。意地が悪かった。レオ!」
 レオフウィンが少女の手を取り広間に入って来る。乳母と思われる女性を初め何名かも後ろに続いていた。
「今朝、ある我が家の旧知の者が送り届けてきたらしい。どうやって連れ出したかわからんが、王都にいたそうだ」

 マウリッツ・アルゲニブは人目を気にすることが出来なくなった。幼馴染の妻を亡くし、代わりに遺された一粒種だったからだ。
「…ああ、ああ」マウリッツは思わず駆け出した。咎める者はいない。娘に駆け寄り抱きしめた。緊張がほぐれたのかマデレーネが泣き出す。
 泣き止むのをしばらく待たなければならなくなったが、まあよかろう。待てないことじゃない。

 マデレーネ姫とお付きの者たちが室外へと向かうのを見守りながら、トールは話を再開した。
「せこい。…乱れた国の中で勝ち残ろうってんだ、謀略、駆け引き、いくらでもやればいいさ。だがこれはせこすぎる。戦国ってのはこういうことをいくらやろうとも許されるわけだ。勝てばな。いい方便だ」
 トールの声にわずかに険が混じった。
「此度の『戦国』ってやつは、王家の屋台骨を外そうと色々やってきた連中が、画策して、算盤を弾いて、仕掛けたものだ。俺以外にもそれに気づいたやつはいるだろう。…俺がハイランディアでやたら手緩いと思われようが極力損害を抑え戦ったのは、国力を残し人材を残し、奴らと四つに組むためだ。だからお前らは生きろ。そしてこのクソしょうもない戦いを最もマシな形で終わらせるために、俺に力を貸せ」


 アルゲニブ家の将を登用する。
 当主テオドリク(7 4 6)、その兄マウリッツ(5 3 3)
 首将アウグスト・スヴェンソン(7 4 3)、その息子アルベルト(5 3 6)
 そしてノーマン・オーベルト(3 4 3)



<王暦259年3月〜10月>
 アンブローシア連合王国のある地域は一般にアンブローシア地峡と呼ばれるが、確かに南北大陸の間のくびれた部分に当たるものの、平均100リーグの幅は地峡というには広過ぎた。だが東西の大洋が近づく箇所はここより他に無く、海洋交易が発達するにつれ東西の物品の流れを繋ぐルートが求められるようになる。幸いこの地には、中央山脈の嶺が途切れる部分があった。その一つハイランディア回廊は、楕円形の盆地の北東と南西に口を開け、アンブローシア中央とカリスタを繋ぐものだ。
 従って、今のトラファルガ家はそのニ方向のみで他勢力と接することになる。
 南西はケイニクラ家傘下のプロシオン家、北東はビハム家を飲み込んだ摂政家アルワイドだ。

「月あたりの兵の補充は?」
「2000は維持できます」
「鉄砲は?」
「自国生産量は現在のところ50です。漸増はしますが、新規部隊の装備率は当面少ないと見るべきかと」
「では新規部隊の、少なくとも兵力が揃うまではこちらからは動かずだ」
「はい」
「メイベル卿に任すマルカブの内陸交易船団の補充も急がせてくれ。鉄砲の購入資金くらいは捻出しないとな」

 9月、ハイランディアは豊作。税率45とする。
 続く10月初めまで兵力補充を続け、総兵力3万5千となる。

 この時点で、南のケイニクラ家勢力は未だに戦端を開かず、約5万3千の戦力が手付かずで残っていた。
 一方北側。傘下を含むアルワイド家の国力はトラファルガの約4倍、アルワイド本体では2倍。
 だが勢力が分割されていることと、ヅィバン家勢力との抗争により、中央でのアルワイド家勢力の戦力はトラファルガを下回った。
 時機は来た。


 トールは全ての将をマルカブに集め、宣言した。
「これより、アルワイドを攻める。諸君、あわよくば国を救おうではないか。…まあ、気張らずに行こうぜ」


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第一章での勢力推移
トラファルガ家第一章勢力推移
王暦259年10月時点の勢力配置
259年10月アンブローシア勢力配置

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